近年、進学実績を伸ばしている高校の中には、大学受験で成果を上げることを目標に据え、受験対策に注力する学校が少なくない。一方、広尾学園は、「実際に社会に出てから活躍できる人材を育てる」ことに主眼を置いている。そのため、中学や高校のうちから、学校の枠を飛び越えて、仕事の現場を“疑似体験”するチャンスを生徒に提供している。

 高校と大学の接点を増やし、一体となって教育の質を引き上げる「高大接続」の教育改革が今、国を挙げて進められている。だが広尾学園はさらに一歩進み、高校と「実社会」とを結びつける、いわば「『高・社』接続」の教育を目指している。一人ひとりの生徒が早い時期から、将来就きたい仕事を意識し、そのためにどの大学へ行き、何を学びたいか、を考える。

 「『自分は何のために勉強するのか』。その目的が自分の中で明確になれば、学校が躍起になって詰め込み教育などしなくても、生徒は主体的にどんどん勉強するようになります。われわれ学校の役目は、生徒に受験対策を施すことではなくて、彼らが将来を考えるためのきっかけを与えてあげることだと思っています。そのために学校の外に出る必要があれば、どこにでも出掛けて行けばいい」。金子副校長はそう話す。

乳がんの手術に立ち会う

 東大などの難関校の理系学部にコンスタントに合格者を輩出する「医進・サイエンスコース」では、さらに踏み込んだ“授業”を展開する。

 昨年1月、東京都練馬区にある順天堂大学練馬病院で、乳がんの摘出手術が行われた(下の写真)。メスを持つ執刀医。その後ろには、真剣な眼差しで施術の様子を覗き込む、2人の若者がいる。実はこの2人は、広尾学園高校の生徒。同校が定期的に実施している「病理診断講座」でのひとコマだ。

順天堂練馬病院で行われた乳がん摘出手術に立ち会う広尾学園の生徒(左手奥の2人)
順天堂練馬病院で行われた乳がん摘出手術に立ち会う広尾学園の生徒(左手奥の2人)

 順天堂大学の全面協力の下、医療に関心を持つ生徒に実際の医療現場を体験させる。病理診断講座に協力する順天堂大学練馬病院病理診断科の小倉加奈子准教授は、「大学受験での成績が優秀だったというだけで医学部に進む学生が多い。その結果、厳しい仕事の現場でモチベーションを保てなくなる医師が少なくない。高校生のうちに、『本物の医療の現場』に触れさせて、本気で医師を志す若い人を育てていくという広尾学園の考え方に共感した」と話す。

 病理診断講座では、本物のがん細胞を顕微鏡で観察し、患者のパターンごとにどのような治療方法を選択すべきかを議論して発表するなど、「実際の医療の現場に近い体験をしてもらう」(小倉准教授)。発表内容が特に優れていた生徒は、病院に招き、医師が治療方針を議論する「カンファレンス」や手術に立ち会ってもらう。この講座に参加し、手術に立ち会った生徒の1人は昨年、京都大学医学部に進学した。 

 多感な中学・高校生の時期に様々な経験を通じて、「自分は何に向いていて、何をやりたい人間なのか」をとことん考えさせる。広尾学園が目指す「高・社接続」型の教育は、実社会で本当に活躍できる人材を育てる最短ルートなのかもしれない。

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