こんな風景、日本でも見たことがある。当たり前なのかもしれないが、マニュファクチュールという言葉の響きから、勝手に日本とは全く別の姿を想像していた。

 「そっか。同じなのか」。なぜか少しがっかりしながら、A氏に促されるまま機械加工現場の奥へ進んだ。

 すると今度は、下記のような作業風景が現れた。

部品を手で加工する現場。表面を削ったり磨いたり、エンボス(凹凸)を付けたりして装飾を施す

 遠目だとよく分からなかったので、近づいてみると…。

簡単そうに見えて実は熟練の技が要るという。ショパールの腕時計は、こうした職人が装飾を施して初めて美しい輝きを放つという

 小さな部品を治具(対象物を固定する道具)でつかんで磨いていた。微妙な力の加減や研磨円盤の選び方によって仕上がりが変わるという。そのため、職人は何年も同じ作業を繰り返して腕を磨くのだそうだ。

あえて多能工ではなくスーパー単能工を育てる

 ここで日本との違いを発見! トヨタ生産方式などのカイゼン手法を導入する日本の現場の多くは、複数の作業を一人の作業者が担当できるように「多能工化」を図る。一方のショパールの現場では、多能工はあえて作らない。一つの作業を徹底的に教えることで、「スーパー単能工」を育てていた。

 もちろん、日本の現場でもそうしている所はあるかもしれないが、スーパー単能工を育てることは、高級品を扱っている現場だからこそできる“ゼイタク”だと思う。生産効率だけを考えるなら、多能工を育てた方が、少ない人数でより多くの製品を作れるからだ。

 次の写真のような作業も、スーパー単能工ならでは。腕時計のバンド部にマスキングをしているところだ。マスキングとは、加工したくない部分の表面にテープを貼って保護する作業のこと。こうすることで、ピカピカに磨いた部分とマットな(曇ったような)仕上がりの部分が生まれ、華やかになる。

熟練の職人でないと、このマスキング作業は難しいという
仕上がりはこんな感じになる