ブランドとは伝統そのもの

 ショパール家の時計職人の机(左)と、ショイフレ家の宝飾職人の机である。2つは向き合うように置かれ、両家が現在のショパールを形づくっていることを象徴していた。

 何より守るべきは伝統と、それを支える職人技。KFS氏から何度も出てくるキーワードを聞きながら、今更ながら単純なことに気付かされた。ブランドとは、長い年月によってしか生み出せない「伝統そのもの」なのだ。それが分かっているから、ショイフレ家はショパール家ではないにもかかわらず、あたかも同じ一族かのように行動してきた。

 そう考えると、日本の製造企業はもったいないことをしていると言える。ショパールが別の一族にバトンリレーをつないでまでして守ってきたものを、そういった努力をせずに失っていることになるからだ。

 とここで、こんな疑問がわいてきた。ショパールの場合、たまたま後継ぎのKFS氏や妹のキャロライン氏が経営者として優秀だったから良かったものの、全てのファミリー企業がそうとは限らない。ラッキーだっただけではないのか?

 この疑問に対して、スイスのローザンヌにあるビジネススクールでファミリー企業向けプログラムを担当するデニース・ケニヨン・ルビネス教授は、こう解答した。「私はショパールがたまたまラッキーだったとは思わない。両親が伝統を引き継ぐためにきちんと子供たちを教育しただけのこと」。

 ケニヨン・ルビネス教授が正しければ、KFS氏が仮想ショパール氏を今も食卓の友にし、ショパールブランドを愛してやまないのも、小さな頃から仕込まれていたからということになる。偶然ではなく必然を生み出せる。だからファミリー企業は強いのだ。

 次回は、まさにその伝統が息づくマニュファクチュールに足を踏み入れる。自称「カイゼン記者」の視点でお届けする。