利益より伝統、クラフトマンシップが何より大事――。そう聞いて筆者は何とも複雑な気持ちになった。これまでファミリー・非ファミリーを問わず日本の製造企業を取材してきたが、これらは日本の多くの製造企業から失われた考え方だったからだ。

 短期的利益を追い、人材を正規から非正規に切り替え、結果として伝統や職人技を途絶えさせてしまう。長期的に自分の首を絞めると分かっていながら、負のサイクルから抜け出せない。KFS氏の経営には、そんな日本の製造企業が参考にすべきヒントが隠されているように感じた。

 KFS氏はこうも言った。

 「私たち一族が一緒に食事をしている時、よくこんな冗談を言うんだ。『たまにはショパールの仕事と関係のない話をしたいから、ショパール氏には食卓からいったん離れてもらおう』と」

 日本人には理解しにくいヨーロピアンジョークなのかと思ったが、実際は単純なことを意味していた。ショイフレ家は、常に身近な所に「仮想ショパール氏」を置くことで、あたかもショパール家が一緒にいるかのように経営してきたということだ。そうすることで、ショパールというブランド、引いては企業を守り抜いてきた。

 そんなショイフレ家の心構えを現す展示物を本社内のミュージアムで見つけた。下の写真がそれだ。

ミュージアムに展示されていた、互いに向き合う2つの机。左がショパール家に伝わる時計職人の机で、右がショイフレ家に伝わる宝飾職人の机