後見人になることへの委縮ムードも

 もっとも、国はこうした現状に手をこまぬいているわけではない。今後、高齢者、さらに認知症の人の急増が見込まれる中で、国は一般市民の後見人(市民後見人)を増やそうとしている。もともと後見人は専門職がなることが多かったが、それだけでは足りなくなるからだ。また、実際に成年後見制度を利用する人は、近年増加傾向にあるが、2015年12月末現在で約19万人と、その利用が少ないとみている。

 こうした中で2016年5月に「成年後見制度の利用の促進に関する法律」が施行され、9月には内閣府が有識者による委員会を立ち上げた。ここで市民後見人をいかに確保するか、後見人による不正をどう防ぐかなどについて議論された(委員会での検討内容はこちら)。その内容を踏まえて、利用促進に関する基本計画が17年3月にも閣議決定される見通しだ。

 民間企業も、現状を打開するためのサービスに乗り出し始めている。

後見人向けの保険商品も登場

 損害保険ジャパン日本興亜は、2016年4月に後見人向けの保険商品の補償を拡大した。被後見人が他人にけがをさせた場合なども対象とし、さらに17年4月からは、被後見人が間接的に電車を止めて生じてしまった損害もカバーするようになる。同社がこうしたサービスに乗り出したのは、後見人をやることに対する委縮ムードを払しょくしたいという考えからだ。

 きっかけは、16年3月に出た最高裁判決。線路に立ち入った認知症の人が列車にはねられて死亡した際、鉄道会社が遺族に約720万円の損害賠償を請求していた。結果は「遺族は支払う必要なし」との判決となったが、責任無能力者の行動による賠償事故において、後見人の管理責任をどのように考えたらよいのか、に注目が集まった。

 「保険商品を通して、成年後見人を安心して引き受けられるような環境を作っていきたい」と、損害保険ジャパン日本興亜企業商品業務部賠償保険グループの森俊明特命課長は話す。

 城南信用金庫(東京都品川区)は、3月1日から「城南成年後見サポート口座」という従来にないサービスを開始した。

 もともと法定後見制度には、本人の財産を保護する観点から、「後見制度支援信託」という制度がある。日常的に使うお金を後見人が管理して、通常は使わない多額の財産は信託銀行に信託しておく仕組みだ。だがこれを払い戻したり、解約したりするには家裁の指示書が必要で、利用しにくさが指摘されている。

 城南信金のサービスは、金銭の不正を防ぎつつ、使い勝手の良い仕組みを両立するために考え出された。

 被後見人の名義で、2つの口座を開設する。口座Aには生活費など少額、口座Bには日常使わない大口の金額を管理する。口座Aはキャッシュカードを発行し、後見人が1人でも引き出せるが、口座Bはチェック機能を持たせるために、後見人と後見監督人など、署名印鑑を登録して管理する。口座BからAに毎月一定額振りかえるなどのサービスを入れて、利便性も高めたものだ。

 行政の取り組みも進む。埼玉県志木市では、市民後見人を増やしていくための条例案を市議会に提出。3月17日まで開催される市議会で可決されれば、4月1日から施行される。後見人だけに負担がかかるのではなく、地域で後見人と被後見人の関係をサポートしていくような仕組みを築いていく考えだ。

 2012年に462万人だった認知症の人は、2025年には700万人にまで増えると言われている。それまでに認知症の人の財産を適切に管理して、後見人を安心して引き受けられる仕組みをどれだけ整えられるか。民間企業や行政が、さらに知恵を絞っていく必要がある。