岩田教授も、本人の認知症の兆候に周囲がいち早く気づき、本人に対し病への自覚を促してできる限りスムーズな引退につなげることの重要性を説く。

 本人への進言にあたっては、「トップが長年腹を割って話し合ってきたような人物で、直接利害関係のない先輩に当たる人がベスト」と言う。認知症になると猜疑心も強くなりがちで、かつ、一般に、高齢になるほど、自分を認めてくれて、自分が認めた相手の言うことしか聞く耳を持たなくなるとの理由からだ。もちろん家族でも構わないが、既に聞く耳を持っていないケースが多いという。

 また、岩田教授は引退勧告の仕方について、「いろいろ工夫を凝らしてみることも大切」と話す。岩田教授の親戚は、ある会社を興した人物で、80歳過ぎのころからかなりはっきりしたアルツハイマーの症状が出るようになっていた。そのときは息子が社長で、本人は会長を務めていた。会長職だから会議に来てある程度の発言もする。その際、せっかく決まりかけていたことを元に戻してしまうなどの弊害が生じてしまっており、社長である息子から岩田教授は相談を受けていた。

 どうすべきか対応を考えていたところ、景気の低迷により、会社は業績悪化でリストラせざるを得ない状況に陥っていた。ならばそれを使おうと思い立ち、岩田教授から本人に対し、「業績も悪くなったし、ここで会社は社員をリストラしなければいけない。ついては範を垂れてくださいませんか」と伝えた。

 本人にとっては、自分が作った会社だから、会社に対する愛着はあるし、会社の業績が悪化して危機になっていることも認識できる。そのため、大事な社員の首を切るということなら、「わかった」と言って辞めてくれたという。

発症する前から経営トップが心がけて置くべきこと

 認知症の経営者によるトラブルを避けるには、認知症を発症する前から経営トップが心がけて置くべきことも当然ある。岩田教授、今井院長ともども、それは「風通しのいい組織つくり」と口をそろえる。

 周囲が認知症の兆候にいち早く気づいて、適切な診断につなげていくことが重要とはいえ、カリスマ性のあるワンマン経営者の場合、明らかな異変が見られたとしても、周囲はやはり言い出しにくい。もともと、ワンマン経営者の周囲にはイエスマンしかいないことが多いため、自己否定されることに慣れていない。ましてや、意見を言える人もいない。そこに加齢が加わり、暴走に歯止めがかからなくなれば、悲惨な末路が待ち受けるばかりだ。