マンゴーと後日談

 それから30年以上が経った。

 カルメンの金鉱山は意外な場所にあった。私たちの取材拠点から8キロほどのところにガリンペイロが勝手に作った軽飛行機用の滑走路があるのだが、その滑走路のすぐそばだという。

 滑走路はいつも通っていたのに、なぜ気づかなかったのだろう。だが、それも仕方のないことに思われた。あれがそうだと言われても、とても金鉱山には見えない。小屋は朽ち、密林を穿った穴は再び密林に戻っていたからだ。森の中では、カルメンが植えたというマンゴーの畑だけが、食べる者のいない果実をたわわに実らせていた。

 カルメンの鉱山はすぐに経営に行き詰ったという。クイジネーラが次々に辞めていき、補充することができなかったからだ。食事の出ない鉱山にガリンペイロは集まらない。

 原因はカルメンにあった。クイジネーラを叱り、苛め、詰ったという。自由時間を認めず、執拗に監視したらしい。経営者となり立場が変わったカルメンは、クイジネーラに対し異常なほど厳しかった。

 その後のカルメンについて、確かな情報はなかった。若い男を誑し込んで南に行った。アル中で死んだ。鉱山を売ったお金を元手に置屋をやろうとしてヤクザに殺された。どの話も噂の域を出ないものだった。

 だが、その中に、気にかかる噂話があった。「カルメンは国境地帯のずっと奥の金鉱山でクイジネーラとして働いているらしい」というものだった。

 美貌を誇ったカルメンも既に60歳を超えているはずだ。そのカルメンが、ジャングルの奥の金鉱山で再びクイジネーラを始めたというのだ。

 2か月の取材を終え、下流にある拠点の街に戻る最中のことだった。カルメンが働いているかもしれない金鉱山に向かうガリンペイロの集団と出くわした。目つきの鋭い男たちばかりだったが、どうしても聞きたくなってカルメンのことを尋ねた。

 誰1人カルメンのことを知らなかった。カルメンという名の女はいないし、60近いクイジネーラも知らないという。

 別れ際、1人のガリンペイロがこう言った。

 「60過ぎのクイジネーラなんて、いるわけないさ。やっぱり、クイジネーラは若くなくっちゃな」

台所には、クイジネーラが貼ったキリストのカレンダーと、ガリンペイロが貼ったポルノ女優のポスターがあった (c)Eduard MAKINO

(次回に続く)

 大河アマゾンを遡った遥か先にある、暴力に彩られたガリンペイロたちの「王国」。NHKスペシャル「大アマゾン 最後の秘境」シリーズでは、さらに、私たちがいまだ見ぬ生き物の世界、文明社会と接触したことのない先住民族が生きる秘境も取材している。
 シリーズのラインアップは以下の通り。
第1集「伝説の怪魚と謎の大遡上」 4月10日(日)
第2集「ガリンペイロ 黄金を求める男たち」5月8日(日)
第3集「緑の魔境に幻のサルを追う」6月12日(日)
第4集「原初の人々 イゾラド」7月
※全てNHK総合テレビで午後9時から放送予定