噂話

 クイジネーラは猛獣の檻に放り込まれた兎のような存在だった。しかも、猛獣たちはただ味わうだけではなく、その味や食べごたえについて吹聴することも忘れなかった。

 ある日――いつものように――ガリンペイロたちがクイジネーラの噂話をしていた。始まりは、誰々の料理が一番美味いといった他愛のない話だったが、すぐに品のない下ネタに変わった。

 最近化粧が濃いから誰かに惚れたに違いない。最近薄着が過ぎるが欲求不満なんじゃないか。あのクイジネーラは街に夫がいるくせに誰々と寝ているらしい……。

 興が高じてきたのか、他の鉱山で働くクイジネーラの噂話へと話題は変わっていった。不幸な作り話(子どもが病気、親が死にそう)をガリンペイロに吹き込んでは金を借り、そのまま姿を消したクイジネーラ、「ハイーニャ・プレット(黒い女王)」の話。恋人を二度も腹上死させたという「オリビーニャ・モリャール(濡れ濡れオリーブちゃん)」の艶話。嫌いなガリンペイロの食事に釘をいれるという「ベレッタ(イタリア製の高級拳銃の商品名)」の怪女伝説……。

 そんな四方山話の中で、ガリンペイロたちが最も熱心に繰り返す名があった。カルメンという名のクイジネーラだった。

ピンガ(サトウキビの蒸留酒)を回し飲みしながら、賭けドミノで遊ぶガリンペイロたち。話題は金のこと、プータ(娼婦)のこと、クイジネーラのこと…… (c)Eduard MAKINO

 ある金鉱山にカルメンという名の美貌のクイジネーラがやってきた。ガリンペイロのほぼ全員が、すぐに彼女の虜となった。誰が最初に口説き落とすのか、男たちはいつになく真剣に競った。簡単に口説ける女ではなかったが、誰1人諦めなかった。

 カルメンは男の申し出を無視したり無碍に断ったりはしなかった。しかし、その気にさせる会話や軽いスキンシップには応じても、最後の一線を越えることは中々許さない。相手をその気にさせておきながら、焦らしに焦らしたのである。

 そして、男たちの欲望が沸点に達する直前、耳元でこう囁いた。

 「金10グラム(およそ4万円)なら、いいわ」

 それはアマゾンで高級娼婦と呼ばれる女たちの値段より遥かに高い金額だったが、値切ったり諦めたりする男は1人もいなかった。全員がカルメンの言い値を払った、すぐに、男たちは稼ぎの殆ど全てをカルメンにつぎ込むようになった。

 数年後、カルメンの所有する金は10キロ(4000万円)を超えた。そして、その資金で雇主から鉱山を買いとった。

 その日以来、経営者となったカルメンは、いくら金を積まれても、ガリンペイロに身体を許すことはなかった。

クイジネーラとガリンペイロ。クイジネーラを巡ってガリンペイロ同士の殺し合いが起きることも珍しいことではない (c)Eduard MAKINO