他のガリンペイロ同様、ブッシュの素性もよく分からない。10年以上前から〈黄金の悪魔〉の鉱山で働いているらしいこと。極めて寡黙なこと。仕事は真面目にこなすが、酒を飲むと豹変すること。過去に何度も喧嘩をして何度もナイフで切られたことがあるらしいこと。そのせいで、胃の半分と腎臓の片方がないこと。殺人を犯し服役したことがあること。

 だが、背中の入れ墨について知る者は誰もいなかった。

キリスト、天使、アニメのヒーロー、母親、恋人……。ガリンペイロの身体には、様々な刺青が彫られている (c)Eduard MAKINO

刺青の意味

 ある夜、仕事を終えたガリンペイロたちが刺青自慢を始めた。聖人や守護神の名前、恋人の名前、母親の名前。ある者がその謂れを仰々しく自慢すると、別の者が徹底的に貶す。どんどん人が小屋に集まってきて、爆笑の渦ができる。

 ブッシュの背中には何が彫られているのか、誰か知らないか。そう尋ねた時だった。1人の男が突然バカ笑いを止めた。

 男は、ブッシュが酔った時に一度だけ聞いたことがあると言って、神妙な面持ちで語り始めた。

 「あの時も入れ墨について話していたんだ。お前の入れ墨もどうせ男に寝取られた大昔の恋人の名なんだろう?って。奴は口が重かったし、どこか迷惑そうだった。俺は無理やり背中の入れ墨を見ようとしたんだ。そしたらアイツ、俺の手を払いのけ、ただ一言、オヤジの名前だ、と言った。オヤジはアイツが小さい頃、誰かに殺されたという話だった。アイツはこの金鉱山でお金を貯めて、ピストルを買い、オヤジを殺したヤツを殺すと言った。ブラジル中を旅することになっても、絶対に探し出して殺してやる。そう言った」

 父親の仇を討つためだけに密林の奥で金を掘る男。滝の向こう側は、そんな男が生きる世界だった。

(次回に続く)

 大河アマゾンを遡った遥か先にある、暴力に彩られたガリンペイロたちの「王国」。NHKスペシャル「大アマゾン 最後の秘境」シリーズでは、さらに、私たちがいまだ見ぬ生き物の世界、文明社会と接触したことのない先住民族が生きる秘境も取材している。
 シリーズのラインアップは以下の通り。
第1集「伝説の怪魚と謎の大遡上」 4月10日(日)
第2集「ガリンペイロ 黄金を求める男たち」5月8日(日)
第3集「緑の魔境に幻のサルを追う」6月12日(日)
第4集「原初の人々 イゾラド」7月
※全てNHK総合テレビで午後9時から放送予定