踊る男

 ブッシュを初めて見たのは日曜日だった。ガリンペイロにとって日曜日は週1日の休みで、オーナーである〈黄金の悪魔〉が経営する密林の売店に集まるのが常だった。そして昼間から酒をあおり、踊り、賭け事に興じるのだ。その日、売店に集結したガリンペイロは10人ほどだったが、僅か数時間で売店の在庫の全て、すなわちビール185本、ピンガ(サトウキビで作る蒸留酒)8本を空にした。

日曜日、男たちは売店に集まり、1日中飲み、踊る (c)Eduard MAKINO
日曜日、男たちは売店に集まり、1日中飲み、踊る (c)Eduard MAKINO

 ブッシュは缶ビール片手に膝をついて腰を激しく振っていた。少し前にリオで流行っていた性行為を模した踊りのようだった。

 彼は我々を見つけると、酔って焦点の定まらなくなった目を向け、こっちに来いと言った。踊っている自分を撮れというのだ。ブッシュの肉体がうねると腹の傷痕もとぐろを巻く蛇のように気味悪くうねった。ブッシュは腹の傷痕を誇らしげにカメラに向け、「ここだ、ここだ」と何度も叫んでは踊り続けた。

 だが、背後に廻り込んだ時のことだった。ブッシュの動きが急に止まった。そして静かに立ち上がってこう言った。

 「背中は撮るな。撮ったら殺す」

稚拙な文字

 ブッシュの背中と肩甲骨まわりには、いくつかの刺青が彫られていた。絵や模様は少なく、殆どが文字だった。人の名前のようだったが、よくある聖人などの名前ではなかった。

 刺青はデザインが優れているわけでも色使いが派手で目立つわけではなかった。なのに、なぜか強く目を引いた。彫られた文字が余りにも稚拙だったのだ。母国語のはずなのに、その文字は外国人が書く漢字のように不格好だった。鏡を見て自分で彫ったか、ズブの素人に彫ってもらったに違いなかった。

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