(前回から読む)
魚のスープ
食べ始めてから時間はさほど経ってはいないのに、1人のガリンペイロが食べるのを止めた。そして、ゆっくりと、だが力なく、皿の中の料理をフォークでかき回す。「ペッシ(魚)、ペッシ、ペッシ、ペッシ……」と溜息でもつくように呟きながら。
その日のメニューはカルデラーダ(魚のスープ)だった。トマトピューレの缶詰に大量の塩とそこらへんに生えている香辛料(コリアンダーに似た香りだった)を加え、魚の切り身をぶち込んで煮込む。典型的なアマゾンの家庭料理である。
玉ねぎやピーマンやニンジンでも入っていれば味に変化や深みも出るのだろうが、あいにく奥地の金鉱山には殆ど野菜がない。畑でも作ればいいのにと思うのだが、重労働の合間に畑仕事をこなすのは並大抵のことではない。街から野菜が届かない限り、単調で大味な魚のスープばかりが続くことになる。
「ペッシ、ペッシ、ペッシ……」と呟いていた男は、しばしスープをかき回したのち、半分以上を残したまま、小屋に戻っていった。

大盤振る舞い
鉱山で食べたもので一番美味しかった料理は何か。ガリンペイロに聞くと、誰もが同じ料理を答えた。シェラスコ(肉を炭火で焼き上げるブラジル式バーベキュー)である。
年に2度(カーニバルとクリスマスの休日)、〈黄金の悪魔〉はガリンペイロたちに大判振る舞いをする。セスナに詰めるだけの肉を詰め込み、街から運ぶのだ。300キロ以上の肉だった。その大量の肉をバーベキューにして1日で一気に食べ尽くす。ブラジル人らしい、豪快で派手な祝祭の祝い方だった。
だが、カーニバルとクリスマスの2日以外、肉を食べられる機会は殆どなかった。どうしても肉を食べたい者のために、売店にはカラブレーザという代用ソーセージを置いているのだが、値段は10本パックで金5グラム(2万円)もした。買う者は誰もいなかった。
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