まだアイデアの段階の製品に愛好家がリスクをとって出資する、クラウドファンディングはもともとそうした同人活動に力を与えるものだった。とはいえハードウエアを作る難易度に加えて、クラウドファンディングのキャンペーンを仕掛けて成立させる苦労も並大抵のものではなく、ハードウエアにおける今のクラウドファンディングは、スタートアップ企業が宣伝目的でプリセールスを行うものになっている。お金をたくさん集めたが製造に失敗して倒産するプロジェクトも多く出てきて、プロジェクトの完成見込についての審査も厳格になり、ますます気軽なものではなくなってきている。

 クラウドファンディングは今もマスイノベーションの強力なツールであることは間違いないが、同人ハードウエアにとって身近な存在ではない。クラウドファンディング最大手のKickstarterは、そうした現状を改善すべくQuickstarterという試みを始めた。

 数十万から100万円といったサイズのプロジェクトを対象に、スマホで撮影したような簡易な動画による簡単な審査でプロジェクトを立ち上げられるQuickstarterは同人ハードウエアにうってつけのサービスだ。Kickstarterの一部として掲載されることで、世界のユーザーに向けてアピールできる。ハードウエアはソフトウエアやコンテンツに比べて簡単に国境を越えられる。

日本の「オタク」が支えるマスイノベーション

 日本にはスキルも時間もあるホビーユーザー、オタクたちが多い。プロフェッショナルでありながらコンシューマーである、かつてスティーブ・ジョブズがプロシューマーと評した人たちだ。その日本のホビイストたちは未来的な製品を作っている世界の企業から注目を浴びている。

 たとえば、VRを大衆化させてマスイノベーションを起こしつつあるOculusは最初の開発者向けキットであるDK1を日本に向けて優先的に出荷すると発表した。開発者のパルマー・ラッキーは日本のホビイストたちが作るソフトウエアやコンテンツに惚れ込み、何度も日本を訪れて開発者たちと交流している。

 深圳のスタートアップM5Stackの製品を世界で最初に熱狂的に受け入れたのは日本のユーザーで、発売間もない時期に東京で150人ほどを集めて行われたユーザーミートアップは開発者のJimmyを感動させ、以後、新機能はまず日本向けのユーザーグループで報告してくれている。

 広東省出身の中国人Jimmyは、今年初めて海外に出る。行き先は東京だ。東京のメイカーフェアと、彼にとって世界で初めての、彼の製品のユーザーグループに出席するために来日する。もしもJimmyとM5Stackが、将来Appleのようになったら、彼らと日本ユーザーの関係は、「Apple Iとホームブリューコンピュータクラブ」になぞらえて語られるかもしれない。

 開発者同士、ホビイスト同士は簡単に国境を越える。日本のオタクたちは世界のマスイノベーションを生むエコシステムの一部を形成している。