三つめは、様々な製品を売るマーケットプレイスの運営だ。SeeedのサイトにはSeeed自身が開発したキットと、世界中のメイカーから委託販売されているキットが並べて売られている。時には単なる販売委託だけでなく、注文が発生したらSeeedがオンデマンドで製造して出荷し、プロジェクト主には定期的にギャランティーを払うような形態のビジネスも行っている。

 これまで説明してきたように、世界中で自分のアイデアでプロジェクトを起こす「メイカー」が生まれている。多くのメイカーがSeeedのサービスや製品を使っている。

クラウドコンピューティング的に深圳の環境を提供する

 この連載で扱っているのは、アイデアを実現するコストが低くなったことにより生まれるマスイノベーションだ。深圳はもともと、アイデアをハードウェアとして実現するのが他より安い特殊な環境だった。Seeedのビジネスはその環境を世界中に向けて開放したと言える。

 一つめの安価なPCB製造は深圳周辺にいくらでもあるサービスだ。二つめのオープンソースのキット類は、「日本で1億円の開発費、深圳だと500万円」や「3年前に3万円の商品が今では7000円に」で扱った「公板」を西洋的なオープンソースの仕組みに載せたもの。三つめのマーケットプレイスも、連載で触れた、カオスな製品も並ぶ世界最大の電気街、華強北をオンラインに載せたものと言える。

 いわば、深圳のリソースをクラウドコンピューティング的に世界の(多くは西欧の)メイカーに向けて提供するようなものだ。第1回で触れたように、初期コストを一気に下げるクラウドコンピューティングは、シリコンバレーで行われているソフトウェアのマスイノベーションのきっかけとなった。

深圳全体のヒントとなったSeeedのビジネス

 中国全体が「創客」ブームだが、特に深圳を歩き回っていて「創客」という言葉を見かけない日はなく、他の都市より明らかに多い。2014年に僕がはじめて深圳を訪れたときはまったく見かけなかった。

 2015年の1月に、李克強首相がメイカースペース、柴火創客空間(Chaihuo Maker Space)を訪れ、名誉会員章にサインした。Chaihuoは小さいがSeeedが100%出資したメイカースペースで、上記のビジネスを続けるSeeedが深圳のメイカー文化を育むために創った場所だ。アメリカから始まったDIYの祭典メイカーフェアも、中国で最初のものはSeeedが主導して深圳で始まった。

 その意味でオープンソースがDIYの高品質ソフトウェアを生み、それがハードウェアにまで波及しはじめたという流れはアメリカ西海岸主導のもので、中国はそれを輸入している立場だ。だが、DIYのハードウェアが量産クオリティに近づく高品質なものになってくるにつれ、深圳がメイカーに及ぼす影響が大きくなってきた。

Seeedが開いた柴火創客空間。今は会社化し、中国全土にメイカー文化を行き渡らせようとしている