コモディティを組み合わせるだけで高性能ガジェットができる

 深圳の電気街を見ていて驚くのはその開発スピードだ。ドローンもAIスピーカーもあっという間に普及した。今は顔認証を使ったスマートロックシステムをよく見かける。インテルもメディアテックも、流行りものの技術を搭載したチップをよく出す。そうすると電気街の技術レベルが一気に上がる。

 僕は歩き回るコミュニケーションロボットを作る、南京大学から生まれたハードウェアスタートアップとつきあいがある。2015年に見たそのロボットはまるで未来から来たように思えた。ところが、製品化を目指して開発を進めているそのロボットに、コモディティの組み合わせが追いつきつつある。自己位置の推定、AIスピーカーとしての機能などは、この2年間で公板が出回るレベルにコモディティ化してしまった。

 つまり、公板を使って開発するということは、研究開発の反対側にいるように思えるが、むしろ世界中の研究開発の投資の成果を最速で受けられるということにもつながる。世界の技術革新が進むと、勝手にAI化されたり充電が速くなったりするのだ。

 小さいチームで開発しているスタートアップから見ると、自社で頑張って開発している最中の機能が、インテルなどのチップに標準搭載されてコモディティ化してしまうのはたまらないだろう。中国には、「草むらに道を切り開くやつは死ぬ」ということわざがある。最初に挑戦するものは得をしないという意味だ。

 最近の深圳は、製造の街から研究開発の街に変わりつつある。民生ドローン最大手のDJIのような大企業になると、自社製品にはカスタムチップが多く使われている。それらは市場に出回らない、彼らだけのものだ。公板を使っているとその性能には追いつけない。DJIはフライトコントローラを外販することで、むしろインテルやメディアテックといった位置にたどり着きつつある。

 インテルやメディアテック、クアルコムなどが販売しているチップは、専用の製造工場と設計ノウハウが必要で、公板と違って現物を見ても簡単に模倣はできないし、仮に設計データが入手できても製造するのはきわめて難しい。その段階まで行けばコモディティ化から抜け出せたと言えそうだ。ライバルはSONYやAppleといった世界的企業になる。自社で巨大な研究開発センターを設け、知財も保護する方向に動く。

 ただ、この段階でも、周辺製品の製作には公板を利用することができる。たとえばドローンを作る会社が、ドローン用のヘッドマウントディスプレイを作るといった場合だ。その意味でコモディティ化したハードウェアを使うことと、それを上回る速度で自社製品を作ることは、対立ではなくて補完関係にあると言えるだろう。

 次回は、こうした製造業のエコシステムを捉えなおし、深圳を「世界中の発明家、メイカーにとってのふるさと」にしたストーリーを紹介する。