新しいチップと用途が生まれたときに、最初に作られる公板がもっともロット数が少ない。売れ行きの見当がつかないからだ。従って少数で価格が高くなる。それでもほかで売ってない分、最終的に製品を作る側から見たら魅力的だ。

 後追いする方は最初に設計したものに比べたら手間を省けるが、価格も下げなければならない。その分、数を生産して利益を確保することになる。数を作る分だけ企業体力がいる。さらにそれを模倣されるスピードも速いので、適切な価格で売り抜けなければならない。その意味では、どこも能力と体力に見合った商売をしていると言うべきだろう。

大量にバリエーションが生まれるホバーボード。今はバギーもあるほか、車椅子に装着して電動車椅子にするアタッチメントも売られている
大量にバリエーションが生まれるホバーボード。今はバギーもあるほか、車椅子に装着して電動車椅子にするアタッチメントも売られている
[画像のクリックで拡大表示]

 僕が2014年に2輪バランススクーター、もしくはホバーボードと呼ばれているもののコピー品を電気街で見かけたとき、価格はだいたい3万円ぐらいだったのをおぼえている。2018年の今では同じものが7000円ぐらいで売られている。3年あまりで価格が80%ほども下落した。この間、深圳の給料は上がり続けているにもかかわらず、だ。

昨日のイノベーションは今日のコモディティ

 深圳では、昨日のイノベーションは今日のコモディティと言われる。流行り物なら手軽に作れるようになる深圳に、欧米の大企業が開発ラボを置こうとするのは、一つはこの街の製造業に流れているそうした速度を利用するためだ。どんな大企業でも、あらゆる製品をすべて自社設計するわけにはいかない。

 中国の公板と同じような現象が日本でも見られるのは自作PCの世界だ。秋葉原や通販で、規格化されて販売されているマザーボードを買い、適合する部品を用意することで、自分の目的に合ったPCが作れる。また、「静音」「ゲーム用」などの目的に合わせたPCを、規格品のマザーボードを組み合わせて設計し、ショップブランドのPCとして売ることも多く行われている。全体の性能がマザーボードに引っ張られるのは深圳にそっくりだし、出始めのマザーボードは一流メーカーが出していて高いものが多いが、だんだんと廉価なものが発売されるのもそっくりだ。

 日本は自作PCやショップブランドPCが成り立つ充分なサイズの市場がある。そのため、自作PCに限ってはマザーボードが出回る。それが中国になると、アクションカメラやホバーボード、ドローンやAIスピーカーといったものまで出回るという違いがあるだけで、どちらの方が効率がよいという問題ではない。

 もっとも、公板を使った製造の場合、品質の悪い公板を使ったときにはもちろん全体の品質が悪化する。その意味で日本人が満足するクオリティを中国のやり方で実現するのは難しく、「日本でも使える公板」いうのが出てくることはないだろう。以前も紹介した深圳で日本向けの製造業をしているJENESISの藤岡淳一社長の著書『「ハードウェアのシリコンバレー深圳」に学ぶ』には、全品検査や国内でのサポートなど、中国の部品を使って日本向けのサービスを行う苦労が詳細に書かれている。

次ページ コモディティを組み合わせるだけで高性能ガジェットができる