実際にフルタイムの起業家として独り立ちすると、出資を受けていくフェーズになる。こうしたプロの起業家を相手にするのはTusStarという投資会社だ。このTusStarは清華大学のOBによって構成されている。同大のOBネットワークが世界中に広がっているように、TusStarも北京ほか中国全土、さらにマレーシアやアメリカなど世界中に拠点がある大企業だ。1997年に創業し、すでに27社もの投資先を株式公開させている。

 TusStarの強みはグローバルなネットワークがあり、中国国内にもすごく強いネットワークがあることだ。清華大学のOBはどの分野でも活躍していて優秀だ。ハードウェア製造なら深圳、ソフトウェアでグローバルなサービスを目指すならサンフランシスコ、医療にも軍事にも清華大学のOBはいる。

 そして優秀なスタートアップが集まることで、別の投資会社とも組みやすくなっている。1つのベンチャーだけで投資家を集めるのは難しくても、「清華大のOBが起業したバイオのベンチャーを10社集めた」のような形でイベントを行えば、マスコミも投資家も集まりやすい。

 また多くの企業が参加していることで、この中で合併や提携が行われることも多い。TusStarは、このように親和性のある企業を集めて強くして株式公開につなげていく試みを、炭素を圧縮して宝石を作ることになぞらえてダイヤモンドプランと呼んでいる。

スキマでなく大きい市場を取りに行く清華大の卒業生

 ベンチャービジネスは背負っているものが少ない小企業の機敏さを活かして、大企業が見落としているスキマを切り開いていくものだ。だが、TusStarの卒業ベンチャーでIPOまでこぎつけた27社、中でも大きいところは、スキマ産業的なベンチャーとはとても言えない。

 TusStarができて20年も経っておらず、どこの会社も創業メンバーが今も現役で忙しく働いている、という意味では新興企業だ。しかし、たとえば高性能なプロセッサ、特にデジタルビデオのコントローラやエンコーダを作っているSumavisionや、中国版のGPSシステムを作っているBeijing Highlander Digital Technology、鉄道安全システムを作る世紀瑞爾技術といった企業のフィールドはまさに社会の中核分野で、これらの企業は中国の中心で堂々とパフォーマンスを出している。

 思えば清華大学の学生は、同じルールで中国全体から集められたトップ集団である。ライバルがひしめく中でもトップを取るのは、彼らにとってそんなに特別なことではないのかもしれない。

 第1回で「社会実装イノベーション的なマスイノベーションと、科学技術イノベーションの違い」について触れた。もちろんこの2つははっきり分割できるものではなく、境目はあいまいだ。清華大学は科学技術イノベーションの中心地で、サイエンスに大きな投資がなされている。一方、x-labは社会実装を狙うベンチャーを生み出すための仕組みだ。さらに、x-labにも投資をし、ベンチャーをダイヤモンドに育てるTusStarは、今のところ科学技術イノベーション寄りの企業で成績を上げている。

 Dream courseやx-labのような「学生を起業家に」という取り組みは、東大など日本の大学でも行われている。また、シンガポールなど他の国々でも行われている。国全体の創業ブームの大きさと、TusStarのような「すでに起業してうまく行った人たちの投資家集団」の存在が、アメリカや中国と、他との違いと言えるだろう。

 前回の「日本で1億円の開発費、深圳だと500万円」は多くの方が読んでくださり、設計済みのマザーボード「公板」について詳しく聞きたいという問い合わせがきた。次回は公板が生み出されるエコシステムについて、より詳しく説明してみたい。