ただし、将来研究者となるような優秀な大学生が、そのままベンチャー起業家としても優秀とは限らない。たとえばビジネストレンドになっているAIは、研究そのものは数十年前から始められていた。昨今になって、データが取りやすくなる、コンピュータやネットワークの費用が安くなるなど、事前には予想しづらかったさまざまな要因が絡まって市場化された。優れた研究が、その瞬間に市場化されるとは限らない。逆に市場だけを見て、数十年前に「商売にならないから」とAIの研究をストップしていたら、今日はなかっただろう。

授業→ビジネスコンテスト→起業→IPOと段階を踏むシステム

 清華大学には「Dream course」という授業がある。必修ではないが単位が出て、多くの人が受講している。この講義は「大学の研究とスタートアップはこう違う」「起業とは」「会社経営とは」「プロダクト開発とは」などといった、ビジネスのやり方や会社という構造を伝えるものだ。研究者を続けるにしても起業するにしても、それを知識としてわかっていれば視野が広がるだろう。

Steven White教授(左)。MBAホルダーで、MITから移籍してきた。後述するx-labでのメンターと、Dream courseのプログラム作成などをしている。 今回の取材は、北京の環境系ベンチャー北京国能環科環保科技で働きつつ、清華大学にも留学していた佐野史明氏(右)に大きくサポートしていただいた。佐野氏は北京のベンチャーコミュニティを日本にも広める活動をしている
Steven White教授(左)。MBAホルダーで、MITから移籍してきた。後述するx-labでのメンターと、Dream courseのプログラム作成などをしている。 今回の取材は、北京の環境系ベンチャー北京国能環科環保科技で働きつつ、清華大学にも留学していた佐野史明氏(右)に大きくサポートしていただいた。佐野氏は北京のベンチャーコミュニティを日本にも広める活動をしている

 単位のDream courseの次の段階として、x-labという組織が清華大学の中にある。これはクラブ活動のようなもので、単位は出ないが機材やスペースは学校内にある。

 x-labは、MITでも起業支援をしていたMBAホルダーのSteven教授ほか何人ものメンターがいて、技術面とビジネス面の両方で学生をサポートする。大学内や中国全土で行われているビジネスコンテストの資料作成やプロトタイプ(多くのビジネスコンテストが動作するプロトタイプを要求する)の開発をする「起業入門クラブ」のようなものだ。

 2012年から始まったプログラムで、2016年末までの4年間で2万3000人がx-labのプログラムに参加している。そこから1046のビジネスチームが誕生し、432社が実際に起業し、これまでに合計で200万ドル以上の投資を集めている。

 x-labではプロ並みの機材やメンターシップが受けられるが、学生としての身分も担保されて責任は負わせず、長時間かけてアイデアを練り込むことができる、飛行機の滑走路のようなスペースだ。研究者やエンジニアとしてキャリアを積み直すことがいつでもできる。

3Dプリンタなどの工作機械がそろったx-labのプロトタイピングスペース
3Dプリンタなどの工作機械がそろったx-labのプロトタイピングスペース

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