この連載で主に取り上げているのは、「マスイノベーション」という新しい領域だ。それは中国全土で行われているが、もっとも盛んな深圳に僕は注目している。でも、これまで中国のイノベーションを主導してきたのはずっと北京だ。中国のシリコンバレーと言えばまず北京の中関村が挙げられ、北京大学と清華大学は世界でもトップクラスの優秀な大学だ。そちらでも盛んにベンチャー支援が行われている。

 北京のマスイノベーション支援と、深圳のマスイノベーション支援を見ていくと、「どちらも成果を出しているが、互いに相容れないやりかた」がわかる。今回は北京のマスイノベーション支援システムを紹介する。

最高峰の教育からスタートアップを生む「中国のMIT」

 中国・北京の清華大学はアメリカならスタンフォードやMITにあたる、中国最高峰の理系大学だ。よく引用される英Times Higher Educationの2018年版世界大学ランキングでは30位。優秀なことで知られるカリフォルニア大学サンディエゴ校やミュンヘン工科大学などより高い。日本の大学では東京大学の46位が最高位で、アジアでは22位にシンガポール国立大学、27位に北京大学が名を連ねる。清華大学はアジアのトップクラスにある。

 アメリカの大学がスタートアップ育成に力を入れているように、中国の大学も起業家育成が盛んだ。清華大学ではアメリカのモデルを研究し、傘下にある投資会社TusStarとも連携した独自のスタートアッププログラムを展開している。

JETRO研究会「アジアの起業とイノベーション」で筆者が作成した資料。こちらでダウンロードできる。

 アメリカでも大学は多くのスタートアップを生んでいる。インターネットの黎明期を支えたサン・マイクロシステムズの社名のSUNはStanford University Networkの頭文字を取ったものだし、Googleも大学の論文から生まれたスタートアップだ。研究内容がそのままスタートアップになることもあれば、ハーバード在学中にまわりの学生たちとSNSを開発するところから起業したFacebookのような例もある。知性があり行動の自由がある人たち、つまり優秀な大学生とスタートアップは相性がいい。