朽ち果てた町工場も多く目についた
朽ち果てた町工場も多く目についた

 一時は世界的な鉄鋼生産拠点として名を馳せたロレーヌ地域だが、1970年代以降は、徐々に衰退の道を辿った。2000年代以降、中国やインドなどの新興国で鉄鋼生産が急増した後は、衰退のペースに拍車がかかった。

 欧州の鉄鋼メーカーも、世界再編の波に飲み込まれていく。2006年には、インドの富豪、ラクシュミ・ミタル氏率いるミタル・スチールが、ルクセンブルクのアルセロールを買収。同年、ミタルはフロランジュの製鉄所を保有していたフランスの製鉄企業ソラックも傘下に収めた。

 アルセロール・ミタルはその後、激化する世界競争に対応するため、採算の合わない欧州の製鉄所を次々と閉鎖していった。2011年、フロランジュにもリストラの波が押し寄せた。ミタルは製鉄所内の高炉2基を停止し、実質的に閉鎖することを決めた。

 当時、フロランジュ、そして周辺の町は、高炉停止に抗議する従業員や関連会社の人間であふれ返った。高炉関連の仕事に従事していた人間は、取引先や飲食店といった周辺産業も含めると、数千人に達する。雇用を失うことは、フロランジュにとって存亡にかかわる危機だった。

町を歩いても、人の気配がほとんどない
町を歩いても、人の気配がほとんどない

 多くのメディアが取り上げた高炉の停止は、フランス全土に知れわたり、社会問題化した。そして、瞬く間に政治問題へと発展し、翌2012年の大統領選の争点となった。当時、社会党の候補だったフランシス・オランド(現大統領)氏は「大企業によるリストラから労働者を守る」と声高に主張した。

 世論の追い風を受けたオランド候補は、当時のニコラ・サルコジ大統領を破り、大統領選に勝利する。オランド大統領はフロランジュや周辺地域の雇用維持を約束し、一時は工場を国有化する可能性にまで言及した。雇用の受け皿となる売却先を見つけない限り、大企業は工場を閉鎖できないなどの法律を定め、「フロランジュ法」と名付けた。

 政治介入を受けてミタルは、その後、フロランジュの製鉄所内に鉄以外の製品を作る別の生産ラインに投資を継続することを決めた。

 しかし、停止した高炉2基は結局、再稼働することはなかった。フロランジュや周辺地域の雇用は減り続け、飲食店やホテルなども次々と廃業した。今ではこの一帯は、米国中西部の荒廃した工業地帯になぞらえ、フランスのラストベルト(rust belt)と呼ばれる。

 雇用拡大と景気回復を掲げたオランド大統領は公約を果たすことなく、今週末に迫った大統領選には出馬しない意向を明らかにしている。

次ページ 「既存政党の候補は誰がなっても同じ」