一方で、足元では不安要素も広がり始めている。同じくポンド安によって、製造業が海外から仕入れる材料価格が上昇、採算が悪化し始めている。英政府統計局が3月10日に発表した1月の製造業生産指数は前月比0.9%低下。鉱工業業生産指数、建設業生産指数もそれぞれ0.4%落ち込んだ。

 輸入物価の上昇は急速に進んでおり、英国のインフレ率も急ピッチで上昇している。賃金も同じペースで上昇しなければ実質所得の減少を招き、消費停滞につながりかねない。メイ首相は、EU離脱に向けて、EU単一市場から離脱する方針を明確にしており、企業が拠点の英国離れを加速する可能性もある。

スコットランドは再び独立投票を計画

 政治面では、スコットランドの動きが不透明だ。スコットランド民族党のニコラ・スタージョン党首は3月13日にエディンバラで講演し、スコットランド独立を問う2度目の住民投票を実施するよう英政府に要求すると発表。「実施時期は2018年秋から2019年春」と具体的な時期も明言した。

 英政府はスコットランドの住民投票を認めない方針。これに対してスタージョン党首は「英政府はスコットランドの要求を考慮していない」と不満を募らせており、英国内の混乱要因となる可能性もある。

 もちろん、EUにとっても難しい交渉となるのは間違いない。欧州統合を掲げるEUの理念に沿えば、離脱するとはいえ、英国との決定的な決裂は避けたい。一方で、英国に有利な交渉を許せば、EU加盟国内の結束に綻びが生じる。今後はフランスやドイツで大事な選挙を控えている。交渉の行方はこれらの選挙に影響を与える可能性がある。

 EUは3月25日、EUの基礎となったローマ条約の調印から60周年を迎える。当日開催する式典では、英国を除くEU加盟27カ国が議論したEUの将来像を「ローマ宣言」として発表する。「EUの理念は一時的に後退するが、決して衰退するわけではない。いつか、英国がまたEUに戻ってくることを願っている」。欧州委員会の幹部は10日、現地の報道関係者にこう語った。

 しかし、もはや時計を巻き戻すことはできない。双方の思惑が交錯する中、英国とEUは本格的な神経戦に突入する。