今年2月に入ると、要求額はさらに増加。欧州委員会は英国に対して、EU加盟条約で交わした科学技術開発などEU横断プロジェクトにかかる費用の英国負担分、そして英国がEUに加盟していた過去44年分についてEU加盟28カ国の首脳や職員の年金負担を求めた。

 その総額は、約600億ユーロ(約7兆2600億円)に及ぶ。英国では「Brexit bill」と呼ばれ、この手切れ金の支払いを巡る発言が英国とEU双方でヒートアップしている。

 当然ながら、英国政府は手切れ金の支払いを拒否。メイ首相は先の記者会見で分担金の支払いを拒否すると明言。英上院も、弁護士など専門家が分析した報告書を3月4に発表し、「分担金を支払う義務はない」と結論づけている。

 もちろん、EU側も強気の姿勢を崩していない。EU側の離脱交渉の責任者であるミシェル・バルニエ氏は、分担金を交渉の優先事項に据えており、ある程度の妥協ができなければ、英国が望むFTA(自由貿易交渉)の交渉を拒む姿勢を見せている。

「1日に約40本の法律を交渉する必要がある」

 EU側は分担金に加えて、英国で暮らすEUからの移民およびEU圏で暮らす英国からの移民の在留継続資格も優先事項と定めている。メイ首相は、英国に入国する移民の管理を厳格化すると明言しているが、既に英国に滞在しているEU移民の取り扱いについては方針を明確にしていない。EU側は、その在留継続資格を引き続き求めていくと見られている。

 もっとも、これらの争点は、今後の英EU離脱交渉のほんの始まりに過ぎない。政治サイト、ポリティコ欧州版によれば、英国とEUが交渉する可能性のある法律やルールは外交、農業、漁業、科学技術など多岐にわたり、少なくとも2万833本あると言う(記事はこちら )。

 一方で、実際の交渉に割く時間は2年よりずっと短い。「EU加盟国による承認手続きや各国の政治イベント、休日などを考えると、実質的な交渉期間は17カ月ほど」と英ケント大学のマシュー・グッドウィン教授は言う。ポリティコでは、営業日換算で、1日当たり約40本の法律を交渉していかなくては間に合わないと報じている。

 もちろん、交渉が期限内に終わらなければ、期限を延長することは技術的には可能。しかし、EU側が同意するかは、今のところ誰にも分からない。

堅調だった英国景気に変調

 離脱通知前の最後のEU首脳会議に臨んだメイ首相は9日、「離脱後も英国は欧州で指導的役割を担える」と強調した。その自信の裏には、国民投票後も堅調に推移している自国の経済がある。3月8日にフィリップ・ハモンド英財務相が発表した予算案では2017年の経済成長率を2.0%と予想し、昨年11月時点の1.4%から大幅に上方修正した。

 その主要因は、ポンド安だ。海外から英国を訪れる旅行の割安感が広がり、ロンドンを中心に海外旅行客が殺到した。高額商品やブランド品の売れ行きが絶好調で、活発な消費が景気を支えている。

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