FAIRでは今、どんなことを研究していますか?

ルブリュン氏: 研究トピックはたくさんあります。例えば、動画認識はまだ難しいですし、自動翻訳についても、データが多い言語は妥当な翻訳ができますが、データが少ない希少言語は改善の余地があります。

 会話に関しても、まだまだ不十分です。チャットボットなどもありますが、まだインテリジェントとは言えません。より自然な会話ができるAIを作っていきたいと思っています。

 あとは、質問に答えられるAI。今、開発しているのがWikipediaの全記事を読み込んだAIです。このAIに何か質問すると、Wikipediaから関連する複数の記事を参照し、その情報を統合して答えを導き出すということもしています。

なるほど。Wikipediaは百科事典のようなものですから、私たちが何かの事象について調べるときは、必要に応じて複数の単語を調べ、各単語の記事から得られた情報を総合して理解します。そうした作業もAIがやって、トータルな情報を教えてくれるということですね。

ルブリュン氏: はい、そうです。ただ、FAIRではアプリ開発までは考えていません。こうした研究の中で、十分な機能が得られれば、それを誰かがサービスとして活用するかもしれませんが。

アレクサンドル・ルブリュン氏
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これまでのFAIRの研究で、実用化されたものにはどんなものがあるんでしょうか?

ルブリュン氏: 自動翻訳とか、先にお話した画像の内容を説明する機能、FacebookメッセンジャーのAIアシスタント「M」の会話システムなどがそうです。

 それ以外にもたくさんのオープンソースを公開しています。例えば、「ファストテキスト」というものはテキストを理解して分類する機能で、世界5万以上のデベロッパーで使用されています。ウェブサイトのコメントのフィルタリングやスパムの排除などに使われています。これは、現在、Facebookに導入されているコンテンツ・フィルタリングの機能と非常に似ています。

AIには期待が集まる一方で、「職を奪われるのではないか」「支配されるのではないか」といった脅威論を唱える人もいます。AIは今後、社会にどんな影響をもたらしていくでしょう。

ルブリュン氏: われわれはAIの研究をしていますから、AIに対してポジティブな考えを持っていますが、今のAIの状況は、クルマが発明されたときに似ているのではと思っています。クルマも最初は人々に怖がられたのではないでしょうか。危険なものだ、人を殺しかねないというようにね。でもその半面、クルマには速く移動できるという利点があります。それによって、救急車などはたくさんの人の命を救えるようになったわけです。いい面、悪い面があるクルマを使いこなすため、人間はルールを作りましたよね。お酒を飲んだら乗ってはいけないと決めたり、さまざまな標識を作ったりしました。

 AIも同じだと思います。AIが新しい可能性を人間社会にもたらすことは間違いありません。例えば、AIを活用すれば、人間にはもっと時間ができるでしょう。その時間で好きな人と過ごしたり、旅行に行ったり、好きなことができます。一方で、人間の働き方ががらりと変わってしまうということもあります。倫理的な面も含めて、話し合いやルール作りがこれから必要なのだと思います。

(文/平野亜矢=日経トレンディネット、写真/志田彩香)

日経トレンディネット 2017年12月8日付の記事を転載]