トヨタ「ハイエース バン スーパーGL」(税込み356万2920円~)
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トヨタがワンボックス車の「ハイエース」シリーズと「レジアスエース」を一部改良し、2017年12月1日に発売した。税込み価格は「ハイエース バン」「レジアスエース バン」が240万5160~370万4400円。定員10人の乗用ワゴン「ハイエース ワゴン」が281万4480~391万680円。定員14人のハイルーフ仕様のミニバスタイプ「ハイエースコミューター」が314万2800~365万9040円。レジアスエースは車名とエンブレム以外は、ハイエース バンと同じ仕様で、販売チャネルが異なる。
今回の改良のポイントは、安全面と防犯面の強化と、新クリーンディーゼルエンジンの搭載だ。詳しく見ていこう。
商用車だからこそ、先進安全運転支援パッケージもこだわった
先進安全運転支援パッケージ「Toyota Safety Sense P」は単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせたシステム
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まず安全面では、商用車でも徐々に普及が進みだした先進安全運転支援パッケージ「Toyota Safety Sense」の上級仕様である「Toyota Safety Sense P」を初めて全車に標準装備した。これは単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせたシステムで、歩行者検知機能付衝突被害回避・軽減ブレーキ、車線逸脱警告機能、オートマチックハイビームの3つの機能でドライバーをサポートするというもの。
価格にシビアな商用車で、上級仕様の安全支援システムをなぜ付けたのか。商用車は積載する荷物によって、車両重量が大きく変わり、積載する位置によっては重量バランスも変動する。しかも日常的に使用され、長距離移動も多く、荷物を積載した状態で一般道から高速まで幅広い領域で使用される。マイカーに比べると移動時の重量も重く、走行距離もかなり長いことが多い。つまりシビアな状況での使用が想定されるからこそ、早めに危険を察知できるように、センサーがカバーする範囲が広いミリ波レーダーを採用した安全支援システムを採用したというわけだ。
このため空荷から積載可能な最大の重さまで、あらゆる積載状況において安全運転をサポートできるように、モデルごとに専用にToyota Safety Sense Pをチューニングしているのが「今回の改良で最もこだわった点」とトヨタの野村 淳チーフエンジニアは話す。仕事の道具であり、移動手段として使われる商用車だからこそ、高性能なシステムを採用し、作り込んだというのだ。商用車の故障はユーザー本人だけでなく、影響が多岐に及ぶため、「ハイエースは開発時から、故障しても大きな修理が必要にならないように、各部位で先に壊れる箇所を想定し、対応策を盛り込んでいる。例えば、駆動系でも高価な部品より前に安価な部品が壊れるようにし、早めに異常に気付いて軽傷のうちに必要な修理を行えるように設計している。Toyota Safety Sense Pの搭載により事故などのアクシデントを防ぐことは重要だが、顧客の仕事に支障をきたさないという効果もある」(野村チーフエンジニア)
厳しい環境で使われるハイエースだからこそと、Toyota Safety Sense Pの搭載理由を説明するトヨタの野村 淳チーフエンジニア
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なぜACCが付かなかったのか
一方で、乗用車版のToyota Safety Sense Pには搭載されている全車速追従機能付きアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)が今回のハイエースおよびレジアスエースには付いていない。今回の安全装備は2年前から開発に着手していたが、基本機能のチューニングにかなりの時間が必要であったため、今回は搭載を見送っている。日産から先進運転支援機能搭載版の「キャラバン」が先に登場したこともあり、先進安全運転支援機能をなるべく早くだすことを優先させ、ACC機能の搭載を先送りしたというわけだ。具体的な時期は明かさなかったが、ACCの搭載は次のステップとして考えているという。
なお、Toyota Safety Sense Pのほかにも、カーブや急ハンドル時に横滑りを抑える「車両安定制御システム(VSC)」、滑りやすい路面での発進や加速時のタイヤの空転を防ぐ「トラクションコントロール(TRC)」、急な坂道での発進時に車両のずり落ちを一定時間抑える「ヒルスタートアシストコントロール」を搭載している。
基本デザインは、デビュー時のままだが、古さを感じさせないスタイルだ。
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海外人気で車両盗難がなくならない? 盗難対策は
盗難防止システム「イモビライザー」に加え、「オートアラーム」を標準装備
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防犯面については、これまで搭載してきた「イモビライザー」(専用キー以外ではエンジンがかからなくなるシステム)に加えて、異常時には警報を発する「オートアラーム」を標準装備した。
背景には、ハイエースの海外人気の高さがある。世界の約150カ国で販売され、タフさと使い勝手から評価が高く、ハイエースという車名のほうがトヨタという会社名より知られている地域があるほどだという。このため、国内ではハイエースは盗まれることが多い車種の一つになってしまっている。海外での人気から車両と部品の需要が高く、窃盗犯がターゲットにしやすいからだ。よってイモビライザーやオートアラームの搭載などメーカーも対策を講じていても、やはり犯人とのいたちごっことなっている面はある。オートアラームの全車標準化は重要だが、それでも保管場所への配慮やさらなる盗難防止器具の追加など、ユーザー自身の対策は今後も必要となるだろう。
ハイエースは耐久性と信頼性の高さから、海外で人気が高い反面、国内では盗まれることが多い車種の一つにもなってしまっている
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クリーンディーゼルエンジン「1GD-FTV」を新採用
パワートレインは、ガソリン仕様は従来型同様の2.0Lガソリン車と2.7Lガソリン車を設定。トランスミッションは6速ATが基本で、2.0Lガソリン車のみ5速MTが選べるモデルがある。また2.7Lガソリン車では、6速ATと4WDの組み合わせも用意されている。
ディーゼル仕様には次世代のクリーンディーゼルエンジン「1GD-FTV」を採用
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ディーゼル仕様は尿素SCRシステムを搭載した2.8Lクリーンディーゼルエンジン「1GD-
FTV」を新たに採用。これに6速ATを組み合わせ、従来型より1.6~1.0km/L燃費が向上し、2WDロングバンDX(標準ルーフ・標準フロア)でJC08モード13.0km/Lを実現している。この結果、「平成27年度燃費基準+15%」を達成し、「平成21年基準排出ガス10%低減レベル」の認定を取得。「エコカー減税」の免税措置対象となった。クリーンディーゼル車では、後輪駆動車に加え、4WD車の選択も可能だ。
装備面としては、タコメーター付きオプティトロンメーター(自発光式アナログメーター)が標準化されたのもトピックだ。
タコメーター付きオプティトロンメーター(自発光式アナログメーター)が標準化
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国内の個人需要を増やしたい
累計販売台数は約602万台にも上る。海外需要も高く、今や世界のハイエースなのだ
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ハイエースは今年で誕生50周年を迎え、2004年に登場した現行型は5代目に当たる。累計販売台数は約602万台で、年間販売台数は約20万台。国内と海外の販売比率は、4:6で海外のほうが多いのだが、さらに海外には多くの中古車が輸出されていることから、ニーズは海外のほうが高いと言える。
標準ボディーでも、荷室高1320mm×荷室幅1520mm×奥行1855mm~3000mmを確保する(スーパーGL)
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今後は国内の個人ユーザーを対象に、カスタマイズ需要に応えるなど、新たなニーズを掘り起こしていくという。ハイエースは、オートバイやマリンスポーツなどの趣味を持つ層に人気があり、キャンピングカーなどのカスタマイズ需要も高い。そこで、ハイエースが使い勝手に優れることアピールするため、全国44カ所のディーラーでハイエース専用コーナー「ハイエースフィールド」を設け、ハイエースでアウトドアを楽しむライフスタイルを提案するという。ハイエースにも、先進安全運転支援機能が搭載されていると知れば、関心を持つ人も多いはず。さらなる需要喚起に向けて、早期のACC搭載モデルを登場が待ち望まれる。
「ハイエースフィールド」イメージ
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(文・写真/大音安弘)
[日経トレンディネット 2017年12月7日付の記事を転載]
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