この連載「川島蓉子『経営トップが磨く“勘と感”』」は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか。そして、どのように磨けばいいのかについて、成功談も失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。
今回はRIZAP(ライザップ)グループの社長を務める瀬戸健さんにご登場いただきます。RIZAPは「結果にコミットする」をうたい、有名人が次々とスリムになるビフォーアフターのCMが話題に。2012年にスタートして以来、現在の店舗数は121店、累計会員数は9万人超(いずれも2017年11月現在)と、驚異的な成長を遂げています。さらに、ゴルフ、英会話、料理などと、ビジネスの領域を広げています。
そんなRIZAPを率いる瀬戸さんが、「勘」や「感」をどう生かして今に至っているのか、話を聞きに行ってきました。
経験のデータベースから導き出されるのが「勘」
川島: 最初からズバリ伺います。瀬戸さんにとって「勘」や「感」とは何を意味するのでしょうか?
瀬戸: ひと言で言えば、過去の経験のデータベースから導き出される最適な手段。それが「勘」です。分かりやすく言うと、「お母さん、今日もきれいだね」と言ったら、普通は喜んでくれますよね。つまり、何かアクションを起こすと、必ずリターンがある。それが脳とつながって、データベース化されると考えているのです。
川島: データベースから導き出されるのが「勘」ということですね。
瀬戸: そう、「勘」はゼロから生まれないという確信があります。優れた経営者は「勘」が強いとよく聞きますが、それは生まれつき備わっているものではなくて、データベースを持っているから。つまり、ものすごい数のアクションと、それに対するリターンを経験しているということです。
「失敗」がデータベースの精度を上げる
川島: そのときのデータベースは、自分の体験によるものじゃないとダメなのですか? 本とか研修とかではダメなのでしょうか?
瀬戸: 体験が脳の記憶にデータベース化されるという点で言えば、たとえば本の場合、1冊読んでもせいぜい1~2割程度しか記憶に残らないのではないでしょうか。それが体験となると、5割程度まで上がると僕は思っています。しかも、成功より失敗した体験のほうが、さらに精度が上がると確信しています。
川島: えっ、失敗したほうがデータベースに有用で「勘」は磨かれるってことですか?
瀬戸: 私の過去の経験から言うと、自ら挑んだ行動の半数以上は失敗と思っているのですが、「こう思っていたのに、こうだからうまく行かなかった」という失敗体験が、先ほど話した5割の蓄積度を10割にするのです。「失敗は成功のもと」とよくいわれますが、私にとって失敗は、データベースのもとなのです。
川島: たとえば同じ経験をしても、データベース化できる人とそうじゃない人っているじゃないですか。それって何が分けるんですか?
瀬戸: 当事者としてその経験を捉えているかどうではないでしょうか。失敗したときに人のせいにすると、データベースに蓄積されないのです。要は柔軟に考えることができない人、悪い意味で失敗に固執してしまう人はデータベースの蓄積が遅れます。世の中で成功する人は、綿のように何でも吸収する柔軟さを持っているし、成功しない人はだいたい失敗の大部分を外的要因のせいにし、それに固執してしまうものだと思っています。
川島: 正直言って、瀬戸さんにお会いして少し驚いちゃったんです。RIZAPといえばイケイケの企業で、社長は少しギラッとしているんじゃないかと。そしたら実体としてのご本人は、とても穏やかで謙虚なイメージをお持ちで、見事に裏切られました(笑)。
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