アーノルド・シュワルツェネッガーの知られざる魅力をひもといた話題の書籍『シュワルツェネッガー主義』著者のてらさわホーク氏に、シュワルツェネッガーの魅力を改めて聞いたインタビューの後編(前編『えっ、「シュワルツェネッガー」がブームなの?」はこちら)。ここでは転機となった『ラスト・アクション・ヒーロー』をきっかけに、黄金期を過ぎてシュワルツェネッガーが失速していく背景を探っていく。

「シュワルツェネッガー主義」(てらさわホーク著、洋泉社刊)
「シュワルツェネッガー主義」(てらさわホーク著、洋泉社刊)
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左がてらさわホーク氏。1973年生まれ。映画ライター。共著に「アメコミ40年戦記 いかにしてアメリカのヒーローは日本を制覇したか」「映画のディスとピア」(ともに洋泉社刊)。聞き手はTVディレクターの稲垣哲也氏(右)
左がてらさわホーク氏。1973年生まれ。映画ライター。共著に「アメコミ40年戦記 いかにしてアメリカのヒーローは日本を制覇したか」「映画のディスとピア」(ともに洋泉社刊)。聞き手はTVディレクターの稲垣哲也氏(右)
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転機となった『ラスト・アクション・ヒーロー』

――意外だったのは『ラスト・アクション・ヒーロー』(日本公開は1993年)のことを著書の中で相当辛辣に書かれていたことです。映画好きの少年がシュワルツェネッガー映画の中に入り込んでしまうというコメディアクション映画ですが。

てらさわ: 冷静になってもう1回映画を見てみたら、「これはちょっと」という部分が相当目につきました。やりたいことは分かるんだけど、「でもさ」という。そこはちゃんと書いておかないと、シュワルツェネッガーについての本であると同時に、やっぱり映画についての本なので。

――個人的には好きな映画ですか?

てらさわ: 好きか嫌いかと言われたら「好きだよ」と言うんだけど、映画を見た帰りにラーメン店とかで、「何だったんだろう」と考え込んでしまう、自分の中でどう位置付けるか悩むみたいな。そういう作品ですよね。

――10月19日に『ラスト・アクション・ヒーロー』が新文芸坐で1回だけの特別興行として上映されます。感動したのは、シュワルツェネッガーの作品の中で劇場版の配給権がクリアできるのが、たまたまこの作品しかなかったということです。すごく奇跡的じゃないですか。よりにもよってという言い方も失礼ですけど、これだけが残っていたという。

てらさわ: そうなんですよ。ただ意外なのは、僕が「『ラスト・アクション・ヒーロー』なんてさ」と、あちこちで文句言っていたら怒る人もいて。「いや、何言っているんですか、いい映画じゃないですか」と。いや、いい映画ですよ。よく分かりますけど。でも何かすみませんでしたみたいな。ちょっと考えを改めましたね。

――ファンが多い作品なんですね。

てらさわ: ファンが多いんでしょうね。あとやっぱりいろいろな方がそれぞれご覧になった時期とかがあると思うし。あとそのときの気分、体調とかも。僕もやっぱりたまに見て、何カ所かホロっときたりするし。

――ホロッときますよね。

てらさわ: そうでしょう。何かそういう、意外と一言で駄作とか、あれはクソ映画だとかいう気には間違いなくならないです。

――ただ『ラスト・アクション・ヒーロー』は興行的に大失敗したのは事実で、以降、シュワルツェネッガーのスターとしての勢いは失速していった感が否めません。

てらさわ: 今回全作品を見直してみて改めて思ったんですけど、映画俳優としての黄金時代は思いのほか短いんです。1つには彼だけではない、肉弾アクションスター路線というのが、急速に下火なったのもあるんですが。

――確かに90年代はスタローンも失速しましたね。

てらさわ: スタローンもそうですし、彼らの後も結局続かなかった。ジャン・クロード・ヴァン・ダムもドルフ・ラングレンも。何か1回どこかで飽きられたのかな。そもそもシュワルツェネッガーがメインのフィールドにしていた中年オジサン向けのR指定のアクション映画ってそんなに大きなビジネスじゃなかったと思うんですよ。

――客をものすごく絞っていますもんね。

てらさわ: それこそ僕、小中学生ぐらいのとき、おやじがよくテレビで映画見てたんですけど「またチャック・ノリスか」みたいな。そういうオジサン向けの狭いマーケットの中で、もしかしたらスタローンとシュワルツェネッガーは特殊な事例だったのかもしれないと思います。若い人たちや家族連れ相手にバッと観客層を広げたんだけど、実はその広げた観客たちは、後になると、やっぱり恐竜が出てくる映画とか、海賊が出てくる映画のほうがいいとかいうことに気付いてしまって。

――だから『ラスト・アクション・ヒーロー』が同時期に公開された『ジュラシック・パーク』に食われた、とお書きになっていて、すごく象徴的だなと思いました。90年代半ばに映画はCGの時代に突入した。そんななか、肉体を売りにしていたスターが凋落していくという。

てらさわ: そうなんですよね。ただ、そのことについてはちょっとつらい話があって。確かに『ジュラシック・パーク』に大敗を喫したんですけど、よくよく考えたら、『ジュラシック・パーク』の特殊効果を作っていた人たちって、その前に『ターミネーター』もやっていたし、『トータル・リコール』だって、CGの時代の直前に、あんなすごいSFXを駆使していました。そういった先鞭はシュッワルツェネッガーの映画がつけていたのに、彼だけを置いてけぼりにしていくのか! みたいには思いましたね。

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