家がデバイス、AIがOS

 このようなAIマンションを標榜する取り組みは、何もインヴァランスとBOT社特有のものではない。米コンサルティングファームのA.T. カーニーは、スマートホームの市場規模の推移を2020年までに現在の3.3倍の5兆円(1ドルを100円換算)に拡大すると予測。さらに2030年までに40兆円になると予測する。その市場拡大をけん引するのは日本と中国になると見る。

 東京急行電鉄が発足したスマートホーム実現に向けて企業連合組織「コネクティッドホーム アライアンス」もその一例だ(日経トレンディネット関連記事)。同組織にはトヨタ自動車、ソフトバンク、日本マイクロソフトなど名だたる企業77社が参加する。9月14日に実施した設立総会に登壇した市来利之取締役常務執行役員は、「米国と比べると、日本は完全に周回遅れになっている」と説明。企業の垣根を越えた、統一的なサービスを作っていく必要があると訴えた。

 ところが、具体的なサービスや商品は明らかになっていない。なぜ日本のスマートホーム市場は足踏み状態にあるのか。その理由をBOT社のサクセナ氏は「個別製品の販売にとどまっているからだ」と指摘する。スマートフォンで鍵を開け閉めできるスマートロックなどは日本でも提供企業が増えているものの、「個別の製品単位では限られた価値しか提供できない」(サクセナ氏)。例えば、部屋の温度を調整するときには本来エアコンだけではなく、カーテンの開け閉めで日当たりを調整したり、湿度を調整したりするなど、複数の設備を同時にコントロールすべきだという。

 それには家全体をIT化する必要がある。だが「家にAIというOSをインストールすることは難しい。なぜなら、AIを学習させるためのセンサーも同時に設置しなければならないからだ」(サクセナ氏)。実現には、マンションの設計段階からAIを組み込む必要がある。だから、BOT社はインヴァランスと提携したわけだ。

 スマートホームとは、IT化された家というデバイスに、AIというOSを組み込んだものを指す。インヴァランスが家というデバイスを作るメーカー、BOT社のAIがそのデバイスを動かすプラットフォームとなるOS、家の設備や家電製品をアプリケーションと整理すると分かりやすい。昨今、グーグルやアマゾン、LINEが音声認識の対話型AIに力を入れる理由も、家を含む既存のデバイスに導入する新たなプラットフォームの覇権争いを見越しているからだろう(日経トレンディネット関連記事)。

 スマートフォンの世界では、大元となるOSを押さえたアップルとグーグルが覇者となった。日本連合はスマートホームという新たな市場において心臓部分となるOSを抑えられなければ、そのOSの上でしかビジネスをできない恐れがある。

(文/中村勇介=日経トレンディネット)

日経トレンディネット 2017年10月25日付の記事を転載]