ソフトバンクが販売している「シンプルスマホ」は、フィーチャーフォンからスマートフォンに乗り替えるスマホ初心者やシニア層を主なターゲットにした機種だ。「メーンターゲットは40~60代。年齢が高めの人でもタッチなどの操作がしやすいように仕上げている」(プロダクト企画本部 商品企画統括部 商品企画部 商品企画2課の柏崎裕子氏)。
2016年9月9日に発売された「シンプルスマホ3」は3代目になるが、過去の「シンプルスマホ」「シンプルスマホ2」とはかなり印象が違っている。デザインは一般的なスマホに近づき、一見、“初心者やシニアが持つもの”という雰囲気を感じさせない。
デザインなどを変えた背景には、開発にあたって、ターゲットとなるシニア層を対象に実施した調査がある。ユーザーの声を改めて拾ってみると、開発側が想定していなかった要望や不満があった。また、シンプルスマホが最初に発売された2013年から3年がたって、パソコンを使い慣れている世代がシニア層になったことで、ニーズにも変化が出てきているようだ。
ソフトバンクが発売したシャープ製のAndroidスマートフォン「シンプルスマホ3」。ライラックシルバー、ブラック、ピンクの3色を用意している
[画像のクリックで拡大表示]
アイコンや文字は大きければいいわけではない
前モデルのシンプルスマホ2では約4.5インチだった画面サイズを、シンプルスマホ3では約5インチに拡大。ボタンやアイコンが押しやすくなり、表示される文字も111%に大きくなった。さらに、メーン画面で表示されるアプリ数を6つから9つに増やしたり、家族や友人など、よく連絡する相手を登録しておけるショートカットボタン「楽ともリンク」を3つから4つに増やしたりしている。
重視したのは、機能の一覧性を高めることだ。開発を担当した柏崎氏によると、「視力が衰えるシニア層には、アイコンや文字が大きいほうが喜ばれると予想していた。だが、ユーザー調査でシンプルスマホ2と比較してもらうと、意外にも、文字の大きさより、使いたいアプリがなるべく多く、一見して分かるように配置されているほうがうれしいという声が多かった」。アプリが一覧できれば、そのスマホで何ができるのかが明確になるからだという。
アプリ一覧の下にある楽ともリンクもアイコンの色を見直した。青、赤、緑、黄という配色は、テレビのリモコンと同じ色調にそろえたそうだ。「普段の生活でなじんでいる機器と同じように使ってもらいたい。寒色、暖色、寒色、暖色という並びも見やすいようだ」(柏崎氏)。
左がシンプルスマホ3、右が前機種のシンプルスマホ2。アイコンのサイズは小さくなったが、一覧性が高くなった。写真では「未登録」となっている楽ともリンクの視認性も上がった。なお、「LINE」はフィーチャーフォンからスマホに乗り替える動機の一つになるそうだ
[画像のクリックで拡大表示]
また、「現代は、自分はまだシニアではないという意識を持ち、活発的に行動する“アクティブシニア”が多く見受けられる」と柏崎氏。頻繁に外出し、SNSも積極的に利用する人が多く、カメラの使用頻度はますます高まっている。そのため、カメラの性能は800万画素から1310万画素に向上。ソフトバンク向けのシャープ製スマートフォンでは初めてカメラ専用シャッターボタンを設け、ボタンを押すだけでカメラを起動できるようにした。
さらに、調査では家族や友人と自撮りしたいという声があったことから、自撮り用のインカメラも120万画素から500万画素に向上。ほかの機種では一般的になっている、人の顔を認識して補正し、肌をなめらかに仕上げる美肌補正機能も搭載した。
カメラ専用シャッターボタンをシャープ製のスマートフォンとして初めて搭載。デジカメと同じ感覚で使えるので、画面タッチに慣れていない人でもシャッター操作がしやすい
[画像のクリックで拡大表示]
左のシンプルスマホ3と右のシンプルスマホ2ではロック画面も違う。全面写真表示になったので、旅先で撮影した写真や孫などの写真を飾りたい人にうれしい点だ
[画像のクリックで拡大表示]
「Google Play」対応で正真正銘のスマホに
シンプルスマホ3で最も変わった点は「Google Play」に対応し、アプリの追加インストールが可能になったことだ。前モデルのシンプルスマホ、シンプルスマホ2は、「スマホ」とうたっておきながら、実際にはアプリの追加ダウンロードができない、いわば“タッチパネル式ガラケー”だった。Google Playを利用するには、Googleアカウントを登録したり、自分でアプリを検索、インストールしたりする必要があり、スマホ初心者やシニア層にはハードルが高いと考えられていたからだ。
ただ、「開発側としても、Google Playを使いこなして、新しいスマートフォンの世界の扉を開いてほしい」とプロダクト本部開発統括部プロダクトマネジメント部プロダクト課の武石由香里氏。前述のように、スマホには不慣れでも、パソコンは使っていた世代もシニア層になってきている。全世代的にスマホの普及率が上がり、子どもや孫に教えてもらえる人も増えているだろう。
その場合でも、障壁になるのはGoogleアカウントの登録だ。そこで、Googleアカウントを登録するときの操作手順を、全画面のキャプチャー付きで紹介した説明書「かんたんガイドブック」を同梱した。「最近は説明書を同梱していないスマートフォンも多いが、シンプルスマホ3では箱を開けたとき一番に目に入るように封入した」(武石氏)。登録したGoogle IDとパスワードを忘れないように記入しておく専用の用紙も付けている。
Google Playに対応したことは、逆にプリインストールアプリの見直しにもつながった。「以前は使いそうなアプリはすべて入れていた。中にはユーザーが使わないものもあったかもしれない」(武石氏)。足りなければユーザーが自ら追加できるからこそ、独自のプリインストールアプリは本当に必要とされるものを厳選できる。
シンプルスマホ独自のプリインストールアプリとして注力しているのが、「Yahoo!地図」や「Yahoo!ニュース」だ。これらのアプリはGoogle Playでも手に入るが、プリインストール版は、インターフェースにひと工夫してある。例えばYahoo!地図の場合、通常、起動直後は現在地が表示されるが、シンプルスマホ版では、「現在地を表示」「ルート」など、検索メニューが表示されるのだ。「アプリの操作に不慣れな人でも、機能がひと目で分かり、目的に応じて操作しやすいようにした」(柏崎氏)。Yahoo!ニュースでも文字を大きくしたり、ニュースや機能をシニア層向けにカスタマイズしているという。
このほか、Googleアカウントを登録しなくても購入後、すぐにアプリを楽しめるように、シニア層に人気の旅行アプリや健康アプリもプリインストールした。「『ことりっぷ』など知名度のあるアプリは、タップするのが恐くない。ユーザーに安心感を持って使ってもらえる」(柏崎氏)そうだ。
プリインストール版の「Yahoo!地図」はシンプルスマホ用にカスタマイズ。起動直後にメニューが表示される
[画像のクリックで拡大表示]
シニア層は健康への意識が高いことから、クリニックと連携して健康管理ができる「マイカルテ」などの健康系アプリもプリインストールされている
[画像のクリックで拡大表示]
カタカナ表記はやっぱりダサい?
アプリなどのインターフェースに加えて改善したのが、外装デザインだ。「今のシニア層は持つものにもこだわりがある。シニア向けと一目で分かるデザインは避けたいと思う人も多い」と柏崎氏。
シンプルスマホ3の個性として、シニアに優しい機能は充実させる必要がある。例えば、スマホ背面のスイッチをオンにするとブザーが鳴り、あらかじめ登録しておいた家族に自動的に電話やメールで知らせる「緊急ブザー」や、シンプルスマホ3を使ったことを伝えるメールが1日1回自動送信される「元気だよメール」などは、シンプルスマホならではの機能だ。スマホを起動したときや初めて使う機能を立ち上げるときには操作方法が表示されたり、画面下にホームキー、通話キー、メールキーという3種類の物理キーを配置し、どの画面を表示していてもワンプッシュでホームに戻ったり、通話やメール機能を呼び出せる操作性の良さも特徴だ。
シンプルスマホ3では、これらは踏まえつつ、外見上はあくまでも普通のスマホに近いデザインに仕上げることをコンセプトにした。本体のデザインを、現在のスマートフォンで主流の板状にしたのはその一つ。また、シンプルスマホ2まではスイッチやボタン周囲に「ブザー」「マナー」「カメラ」などカタカナで記されていた機能名を、シンプルスマホ3では一目でわかりやすいアイコンにするなどして、洗練している。「シニア層は、ほとんどの人が1つの端末を少なくとも2年は使うので耐衝撃性も強化した」(柏崎氏)。
背面を見ると、左のシンプルスマホ3は右のシンプルスマホ2に比べてフラットな板状で、今の人気の機種に近いデザイン
[画像のクリックで拡大表示]
ほぼ同じ場所に緊急ブザーのスイッチがあるが、左のシンプルスマホ3はブザーをアイコンで表示。右のシンプルスマホ2のカタカナ表記に比べると、洗練された印象を受ける
[画像のクリックで拡大表示]
最近は、SIMフリースマホの知名度や普及率が上がり、大手携帯電話会社のスマホから格安SIMとSIMフリースマホに乗り替える人も増えている。ただ、SIMフリースマホは低価格な半面、グローバルでの企画・生産で、ユーザーごとのニーズに対応するのは難しい。携帯電話会社間の激しい競争の中で、これからスマホに乗り替える初心者やシニア層の不安点をすくい上げ、細かなニーズにも対応するシンプルスマホは、大手携帯電話会社だからこそ実現できる戦略商品といえそうだ。
ソフトバンクプロダクト企画本部 商品企画統括部 商品企画部 商品企画2課の柏崎裕子氏(左)とプロダクト本部 開発統括部 プロダクトマネジメント部 プロダクト課の武石由香里氏
[画像のクリックで拡大表示]
(文/大川晶子=スタジオノラ 編集/日経トレンディネット)
Powered by リゾーム?