人工知能エンジンで客と対話するマネキン

 一方、この「IMP AI おもてなしマネキン」は客と対話ができる。ハードウエア自体はプロトタイプと同じものだが、先のIMPコンパニオンとは異なり、対話型の人工知能エンジンを仕込んでいる。サーバーを経由してシステム会社のAIとつながり、言語認識をして双方向の会話を行う。下の動画がその使用例だ。

「駅と空港の設備機器展」(2017年5月)で使用された対話型IMPマネキンの例。AIを活用した対話システムの研究開発・サービス提供を行うNextremer社との協業で生まれた(画像提供:七彩)

 例えば、未来の空港カウンターでは、乗客を相手にマネキンが搭乗手続きから旅先の天気情報、観光案内まで双方向の会話をやってのける……というようなイメージだそう。「自動チェックイン機に代わって、カウンターにずら~っと並んだ各航空会社の制服姿のマネキンと話しながら手続きを済ませ、そのままゲートに行けるぐらいのものに将来なり得るんじゃないでしょうか」(一ノ瀬氏)

七彩の商品部・担当部長の池田公信氏
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 未来の百貨店でも、売り場に立つマネキンが『何色がよろしいですか』とか『子供服は何階フロアです』など、客とやりとりをするかもしれない。この場合、マネキンは服を売るための販促ツールというよりコミュニケーションツールとしての役割を担う。

 とはいえ、七彩は「ロボット作りは目指さない」という軸は変わらない。「マネキンメーカーですから技術の開発を競ったら本末転倒になる。あくまでもマネキンの販路を開拓するために、日々進化するテクノロジーを業界にどう生かせるか、どう積極的に取り入れていくか。それが今後に向けての大きな課題」(商品部 担当部長の池田公信氏)という姿勢だ。

正面に立つ人の顔を“分身”のように映し出すアバター

 IMPプロトタイプに機能を加えた双方向型マネキンには、アバタータイプ(2018年12月発売予定)もある。「IMPアバター」は正面に立った人の顔を読み込み、マネキンの顔部分に“分身”のように映し出す。

 使い方としては、例えばスポーツの日本代表メンバーやアイドルグループ、映画の出演者たちの顔を映したマネキンがずらりと並ぶなか、1体だけ“自分”がいる、というような参加型イベントでの利用を狙う。表情を動物に重ねたり、アニメーション風に加工するなど自在な画像処理も可能だ。

「IMPアバター」の一例。表情を動物に重ねたりアニメーション風に加工するなど自在な画像処理が可能

首元のカメラで客の関心度を数値化、MD戦略に役立てる

 進化系マネキンには「データ収集型」もある。「IMPビュー」がそれだ。首元に仕込んだカメラで客の性別や年齢、来店時間や混雑度などの動向を読み取り、客の関心度を数値化するマーケティング機能を備えたマネキンだ。

画像認識システムを開発するアイテックとの協業で制作したインタラクティブマネキン「IMPビュー」。首元に仕込んだカメラで客の動向を読み取り、さまざまなデータを収集する(画像提供:七彩)
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男性は緑色、女性はピンク色の表示で識別し、年齢を推定する
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 従来の売り場では、商品に興味を持つ来店者の全体像をつかむには店員の経験に頼ることが大きかった。しかし、客の動向を数値で把握することで関心の度合いを客観化できる。年齢層、時間別、曜日別などの収集データをきめ細かく解析すれば、より大きな効果を見込める品ぞろえに変更するなどマーケティング戦略への活用も期待できるのではないか、というのだ。

 実用化も始まり、愛知県の某ショッピングモールでは2018年4月から3カ月間、IMPビューを本格的に導入。マネキン納品先にはデータのみを提供する。録画は一切行わず、七彩側もデータを見ることはできないシステムだという。

 もはや服を着てポーズを決めるだけではない。マネキンらしくないマネキンが次から次に開発され、思いも寄らない機能を身に付け始めた。これまでのマネキンの枠を飛び出していくのは面白い。

(撮影/佐藤 久)

著 者

赤星千春

「?」と「!」を武器に、トレンドのリアルな姿を取材するジャーナリスト。

[ 日経トレンディネット 2018年8月27日付の記事を転載]