潜在的なユーザーへの刺激をねらう

 そもそもなぜ、1000万円以上の高級車であるカイエンのPRに、若年層が鑑賞する映画のシネアドを選んだのか。ポルシェ ジャパンの執行役員でマーケティング部長の山崎香織氏に話を聞いた。

ポルシェ ジャパンマーケティング部長の山崎香織氏
ポルシェ ジャパンマーケティング部長の山崎香織氏
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山崎氏 新型カイエンは3代目となる。911シリーズに次ぐ認知度の高さだが、今回の新型には「Sportscar Together」のキャッチフレーズで、「みんなで楽しめるスポーツカー」をコンセプトにグローバルで訴求することになった。当然ファミリーやパートナーが含まれる。サーキットイベントやテレビCM、専門誌といった通常の枠を超えて、若年層を含めた幅広い世代にカイエンを知ってもらいたい。

 カイエンは、五感で感じてもらいたいクルマ。圧倒的なスピード感、高速性能に耐えうる駆体を持ったSUVという優位性を肌で感じられ、かつ面白くて印象に残るPRを考えているなかで、今回の「映画館で試乗する」というコンセプトのシネアドに行き当たった。今すぐ購入には至らないかもしれないが、若年層にポルシェへの憧れを持ってほしいという願いもある。もちろん、ファミリーも対象。ちょうど夏休み中のため、ターゲットの年齢層が異なる2作品でエリアにもバラエティを持たせた形で広告を打った。

  

――今後全国展開は?

山崎氏 今回の反応を見て、例えば別の車種でやってみるのも面白いと思う。

――販売に直結させるより、広くポルシェブランドを理解してもらうための施策?

山崎氏 その通り。そもそもポルシェを理解してもらうためのカタチも、既存の広告媒体にとらわれず、こういった新しい手法で挑戦していきたい。中長期的にブランドを体感できる取り組みはしていきたい。例えば、スポーツカーをシティで楽しめたり、デジタルを使ってブランド体験をしてもらえるよう360度でタッチポイントを作っていきたい。テストケースとしてさまざまなマーケティング施策をグローバルで行っている。

――今回のシネアドのためのオリジナル素材だが、疾走感を動画で表現するのに一番こだわった点は?

山崎氏 自動車のスペックで「0-100km/h(時速100kmに達するまでの時間)」はよく用いられるが、実際どのくらいの速さか測るわけでもない。どうすれば実際にスピードが上がっていく感じや秒数を表せるかというところにこだわった。あっという間に終わってしまうので、印象に残るにはどうすれば良いか、バランスを考えるのも難しかった。

――動画とシートの動きを同期させる難しさは?

山崎氏 ガタガタ揺れる車ではなく、非常に安定したままコーナリングもさばいていく車なので、実際の乗り心地と“面白さ”のバランスを取るための微調整が困難だった。加速時のグッとくる感じも表現したかった。

――ブランド誕生70周年だからこその斬新な手法?

山崎氏 一昨年後半から日本オリジナルの映像を用いたPRは始めているが、70周年を節目に世界で「Sportscar Together」の機運は高まっているため、ターゲットを広げてブランド理解を深めるための挑戦をしていきたい。70周年だからこそ積極的にやっていきたい。残り4カ月も頑張っていきたい。

――ポルシェを知らない人に訴求する最大のポイントが0-100km/h 3.9秒?

山崎氏 今回のカイエンターボに関してはそうだ。SUVはともすると、あまり速くないんじゃないかと思われがち。ポルシェはプレミアムSUVで、最速のクラスに入っている。そこを数字でキャッチーに覚えてもらいたいと考えた。新しい車、新しいターゲット、新しいテクノロジーでうまく相乗効果を出せたのでは。

 シネアドが流れるのは両劇場とも100席のシアターで、1日4~5回上映されるため、「単純に計算して、2週間で1万人に観ていただけることになる」(ポルシェ ジャパン)という。幅広い年齢層にポルシェを代表するスポーツSUV、新型カイエンを“試乗”してもらい、潜在顧客に訴求する。誕生70周年を迎えたポルシェの新しい挑戦は、スポーツカーへのあこがれを加速させることができるか。

(文/北川雅恵=日経トレンディネット)

[ 日経トレンディネット 2018年8月20日付の記事を転載]

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