仕事上で必要となる「勘」や「感」は、どのように磨けばよいのかについて、川島蓉子が経営トップにお話をうかがうこの連載。前回の記事(日経トレンディネット 2017年8月24日配信「TSUTAYA増田社長『感性とは“お客さんの気分”』」)ではカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の社長を務める増田宗昭さんに登場いただきました。「心」とダイレクトに結びついているのが直感であり、「頭」はそれをサポートする役割を担っていると、手描きの図解も使って説明してくださいました。今回は、鋭い「勘」や「感」を持っている増田さんにも、過去に無数の失敗があったこと。それが自分の成長に役立ってきたこと──増田流「勘」と「感」の意義と磨き方を綴りたいと思います。
CCCの増田 宗昭(ますだ むねあき)社長は1951年大阪府枚方市生まれ。同志社大学を卒業後、鈴屋に入社。軽井沢ベルコモンズの開発などに携わる。1983年に「蔦屋書店(現・TSUTAYA枚方駅前本店)」を創業し、1985年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を設立。2011年12月に「代官山 蔦屋書店」、2015年5月に「二子玉川 蔦屋家電」、2017年4月には大型商業施設「ギンザシックス」内に「銀座 蔦屋書店」をオープン。蔦屋書店やTカード、T-SITEをはじめとした「カルチュア・インフラ」を創り出す企画会社の経営者として奔走している
[画像のクリックで拡大表示]
失敗はいつも成長の節目にあった
川島: 増田さんは「代官山 蔦屋書店」をはじめ、「枚方 蔦屋書店」「銀座 蔦屋書店」と、次々に成功を続けています。ずばり、どうやったらそうなれるのでしょうか?
増田: いや、成功ばかりじゃないです。僕だって山のように失敗してきた。ちょっとそのことについて話してみましょうか。僕が社員向けに書いているブログで、最近、失敗に触れたので。
川島: 増田さん、毎日、社員に向けてブログを書いているんですよね。
増田: そう。偉いでしょう? 毎日毎日です。
川島: 偉いかどうかは置いておいて(笑)。それが意外にいい話で。
増田: 意外とは失礼な(笑)
川島: 先日、『増田のブログ――CCCの社長が、社員だけに語った言葉』と題し、書籍にされました。自分のブログを本にするなんて、ちょっと自慢モードって最初は思ったのですが(笑)、読んでみると普遍的なことがいっぱい詰まっていて、役に立つ話が多くて、意味あるなぁって反省しました。
増田: 愛する社員に向けて、僕が伝えたいことを、毎日、口述筆記で続けてきたのが、あのブログ。でも、川島さんにそう言ってもらってほっとした。それで失敗についてのブログ、読んでみます。
川島: お願いします!
増田:
失敗とは成功のための経験でもあり、成長には必要なことと思う。
自分の人生や、CCCの創業以来の会社の歴史を振り返ってみても、
何度も大きな失敗を重ねてきた。
そして、そのたびに新しいエネルギーをもらったり、仲間が増えたり、
まさに失敗が成長の節目にあった。
(中略)
歩けない赤ちゃんは歩いてケガをするし、
自転車に乗れない子供は、自転車に乗ってひっくり返る。
そんな経験をして、人は成長する。
(中略)
失敗した原因は書き上げると枚挙にいとまがないけれど、
自分自身のことで振り返ると、
人への配慮ができていない自分になっていたことだと思う。
自分の経験や知識をフルに使っても、
答えが見出せないほどの仕事に取り組むと、
やはり目いっぱいになって、他人のことまで配慮が行き届かなくなる。
家族やチームのことが二の次になる。
家族のサポートやチームのサポートがない状態で戦(いくさ)をすれば、
結果は明らか。
能力の限界に挑み、敗れた経験が、独りよがりで仕事に取り組んではいけない
という教訓を残してくれた。
リーダーは独りよがりじゃなくてはいけないんです
川島: いい話じゃないですか。でも聞いていて素朴な疑問がわいてきました。増田さん、リーダーとして独りよがりで判断しなくちゃいけない場面、たくさんありますね。自分が独りよがりじゃないっていう自信ありますか?
増田: 全然ないです。僕は完璧、独りよがり男だから(笑)。
川島: それって矛盾してません?
増田: でもリーダーは独りよがりじゃなくてはいけないんです。なぜならリーダーの役割って、その人の独りよがりに付いていったら、皆が得するということを意味しているから。それは、必ずしもお金や権力のことだけじゃなくて、いろいろな意味での得が含まれています。
川島: 何ですか?
増田: 抱いている自分の夢を実現できる得とか、生んだビジネスでお客さんが喜ぶ姿を目の当たりにできる得とか、知り合いが増える得とか、それはもうさまざまです。
それと、独りよがりって、そう簡単なことじゃないんです。誰よりもわかっていて、誰よりも働いているっていうベースがなければ、やってはいけないこと。社員を働かせてばかりいて何もしない社長が「あのプロジェクトはどうなっている?」なんて、聞くだけで判断していたら、それはもう誰もついてこないわけです。だから僕の場合は、独りよがりをやりながら、「どう?」って周りに聞くことでチューニングしているんです。
川島: 確かに増田さんは自ら現場に出向いていくし、企画についても四六時中考えています。そしていつもいつも、「僕の考えってどう?」って聞いています。でもあれ、社員は反対意見を言えるのかなぁ。
増田: 川島さんも含めて「違う」っていう人、ちゃんといます。それで僕が、なぜ人に聞くかというと、独りよがりで企画したことに対し、他にどんな見方があるのか知りたいし、もし足りないところがあったら「最高!」って言われるところに持っていかないといけないと、自分を戒めているのです。
川島: そういう増田さんの謙虚な姿勢が、もっとたくさんの人に伝わっていくといいなと、かねがね思っているんです。やんちゃ過ぎるから(笑)
「感想文」は書かせるけど、アンケートはダメ
増田: 僕はよく社員に感想文を書かせていますが、社内でアンケートを取るのはできるだけやめてほしいと頼んでいるんです。
川島: なぜ感想文は良くて、アンケートはダメなんですか?
増田: 「この企画、どう?」っていうことは、外部の人ばかりじゃなくて、まず社員に聞いてみたいことなのです。時々、本当に聞きたいことの感想文を社員に書いてもらうのですが、全部に目を通しています。
川島: 本当ですか? すごい労力ですよね、増田さん、意外と真面目です(笑)
増田: もちろん、社長である僕に読まれることを前提に書いてあるから、その分は割り引いて読まないと。絶賛されたのを喜んでばかりいたらアホですから。反対意見も含めて知りたいから感想文を書いてもらっています。
一方、社内では社員に向けたアンケートをやめてほしいと言っています。たとえば「プレミアムフライデーをどう思う?」みたいなのは意味がない。お客さんだったらアンケートを無視できるけれど、社員はできないから。だから感想文だって頻繁にはやっていないし、ましてや〇×式アンケート的なことは意味がないと思うのです。
川島: 社員に愛情持っていますね、増田さん。
増田: 社長として当たり前のことです。でも、CCCというチームを作るには、「頭」がいい人を集めたらダメで、「心」がいい人を集めないといけないんです。
川島: 前回のお話では「心」は「勘」や「感」と結びついているってうかがいました。それって、すぐに分かるんですか?
増田: それこそ、僕の「勘」の働きで「心」がいいかどうかって、すぐに分かります。それと、仲間を大事にする人は「心」がいいということ。つまり「利他」、他の人の幸せを考えられるかどうかは大事です。
川島: それもちょっとした発見! 次回は、「利他」と「勘」と「感」について突っ込んでみたいと思います。
(写真/稲垣純也)
取材・執筆/川島 蓉子(かわしま・ようこ)
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
多摩美術大学非常勤講師。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、などがある。1年365日、毎朝午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
[日経トレンディネット 2017年9月7日付の記事を転載]
Powered by リゾーム?