羽生三冠が戦ったらどうなるのか

 将棋ソフトの実力がプロのタイトルホルダーを上回る日は近いと言われている。「羽生三冠が叡王戦を勝ち抜き、来春、将棋ソフトと二番勝負を戦ったとして、1勝できれば御の字という向きもある」と大川氏。AIが登場して以降、「自分たちの仕事はAIに取って代わられるのか」という話があちこちで聞かれるようになったが、将棋界においても、同様の危機感を抱く棋士は少なくないようだ。

 しかし、大川氏は「2連敗したとしても、将棋はなくならないと思う」と言う。

 将棋は五分五分の戦力で戦いを始め、相手の失着を突いて優勢をつかみ、その優勢を拡大して相手玉を詰ませるゲームだ。そして、将棋ソフトと違い、人間は必ずミスをする。そんな将棋ソフトに人間が勝ち続けるのは難しいだろう。

 ただ、相手の失着を突いて有利になっても、終盤で最善手を逃して逆転負けする……そんな対局の流れこそが、人間同士が戦う将棋の面白さとも言える。観戦記者として将棋ソフトと真剣に向かい合う棋士たちを見てきた大川氏は「人間が対局する姿って美しいと改めて思うようになった」と話す。

 大川氏の著書のタイトルが表すように、棋士自身も「不屈」だ。Ponanzaに負けた後、山崎叡王は「ソフトと触れ合ったことによって、自分の将棋の視野が狭かったことがよくわかりました」「将棋には自分の知らなかった別の常識があることがわかったし、それに気づけたのはうれしかったですね」と大川氏の著書の後書きで語っている。将棋ソフトとの関係を模索しながらも、自らの将棋を磨いていく信念が見える発言だ。

 羽生三冠は叡王戦を勝ち上がれるのか、電王戦の行方はどうなるのかは、現時点ではまったく予想がつかない。しかし、棋士たちがどんな気持ちで将棋ソフトと対戦しているのかに考えを巡らせると、観戦する楽しみも増すに違いない。

(文/堀井塚高 編集/日経トレンディネット