パソコンに強いことが将棋に強いこと?

 『不屈の棋士』の取材で11人もの棋士にインタビューした大川氏が特に印象的だったのは、第1期電王戦で「Ponanza」に2連敗を喫した山崎叡王の話だったという。山崎叡王が口にしたのは、棋士に広がる「デジタル格差」の問題だ。

 プロ棋士の多くは、小中学生のうちに日本将棋連盟主宰の「新進棋士奨励会」(奨励会)に入会し、そこからプロになる。彼らの中には、一般人が大学や会社で必要に迫られるコンピュータースキルを身に付けてこなかった棋士も少なくない。つまり、将棋ソフトを持っていない、持ってはいても使いこなせない棋士も相当いるのが現状なのだ。

 大川氏が第1期電王戦の前に山崎叡王に取材した際、山崎叡王自身、将棋ソフトを利用しておらず「『フリーソフトをダウンロードするのは自分には無理』と語っていた」という。

 一方で、今後、将棋ソフトはますます強くなり、研究に利用する人はプロ・アマ問わず一層増えるだろう。かつて、ネット将棋が登場したとき、それまで奨励会に通うことができなかった子供たちも、より強い相手と対局できるようになった。大川氏によれば、「最近の若手にはネット将棋で強くなった棋士も少なくない」という。デジタルネイティブ世代と呼ばれる今の子供たちのなかから、将棋ソフトで将棋の腕を磨いたというプロ棋士が出てくるのも時間の問題だろう。今後、将棋ソフトへの精通度が、棋士の棋力向上に影響を与える可能性もある。こうなると、「将棋で勝つために、パソコンの知識を習得しなければいけないのか。それは本来、将棋とは関係ない話ではないのか、という視点が出てきているのです」(大川氏)。

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第1期電王戦の対局中、検討室では、山崎叡王と同門のプロ棋士や将棋ソフトの開発者たちが対局を検討した。また、Ponanzaとしのぎを削るほかの将棋ソフトが、山崎叡王とPonanzaのどちらかが指すたびに指し手を評価をしていった
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