「羽生三冠でも、二番勝負のうち1勝できれば御の字」という向きもあるが、そもそもAIと戦うことを、棋士たちはどう考えているのか──著書『不屈の棋士』の中で、羽生三冠、渡辺明竜王など、現代を代表する棋士11人にインタビューした観戦記者、大川慎太郎氏に話を聞いた。
ついに現役最強の棋士が将棋ソフトと公式に対戦する!? そんな衝撃がネットを駆け巡ったのは、2016年5月22日のこと。プロ棋士とAI(人工知能)が対決する棋戦「電王戦」の出場棋士を決める予選会「叡王戦」の第2期トーナメントに、羽生善治三冠(王位・王座・棋聖)が出場すると、主催のドワンゴが発表したのだ。羽生三冠がこのトーナメントを勝ち上がれば、来春開催予定の第2期電王戦で、公の場としては初めて将棋ソフトと対決することになる。
人間とAIとの戦いと言えば、チェスソフトの「ディープブルー」が世界チャンピオンのガルリ・カスパロフに勝利したのが1997年。囲碁では今年3月に「アルファ碁」が、韓国のプロ棋士イ・セドル九段との五番勝負を4-1で制し、大きな話題となった。
将棋ソフトの棋力も年を追って向上しており、2010年には女流最強といわれた清水市代女流王将が、2012年には既に現役を退いていた故米長邦雄永世棋聖が敗北。そして2015年4~5月に開催された第1期電王戦では、現役プロ棋士である山崎隆之叡王(八段)が将棋ソフト「Ponanza」(山本一成氏と下山晃氏が開発)に破れた。トッププロ棋士に勝つコンピュータ将棋の実現を目指した、情報処理学会の「コンピュータ将棋プロジェクト」は、同年10月にプロジェクトの終了を宣言している。
ただ、2007年に渡辺明竜王が当時最強と言われた将棋ソフト「Bonanza」(保木邦仁氏が開発)に勝利して以来、タイトルホルダークラスの棋士と将棋ソフトの公の場での対局はない。そんな中で、いよいよ羽生三冠が出場するとなれば、世の将棋好きがザワつくのも納得だ。