今年7月、20年ぶりにフルモデルチェンジしたスズキの軽4輪駆動車「ジムニー」と、小型4輪駆動車「ジムニー・シエラ」に試乗してみた。小さいながらもプロユースまでを想定した本格オフロードカーで、販売店には多くの試乗希望者が訪れるなど注目度が高い。販売も好調で、仕様によっては年内の納車が難しいという話も。オフロード性能を含めた実力を試し、開発主査に特徴と魅力についても聞いた。
拍子抜けするほど普通に走る
軽自動車「ジムニー」と小型車「ジムニー・シエラ」の大きな違いは、エンジンとタイヤサイズ。インテリアのデザインは、すっきりとした水平基調で、助手席側に乗降時に便利な大型グリップが備わるなど機能性が重視されている。もちろん、エアコンなど基本的な装備は、全車に標準化されている。定員は4人だが、その場合、荷室は小物入れ程度。ただし、後席をたたむと2人+352Lの大容量ラゲッジスペースとなるので、主な使い方は2人乗車プラスアルファとなるだろう。その他のフルモデルチェンジの詳細については、こちらの記事に譲る 「20年ぶりの新ジムニー モード切り替えレバーが復活」。
注目の悪路走破性だが、実際にオフロードコースをジムニーのMT車で走ってみた。オフロードでは、伝統の副変速機パートタイム4WDが活躍する。トランスファーレバーで駆動方式を4L(低速4輪駆動)モードにすると、ぬかるんだ道や急勾配の道なども走行可能になる。
さらに、急な下り坂などでも自動制御ブレーキで低速走行できる新機能、「ヒルディセントコントロール」もオンに。上り下りやコブが連なる凸凹の泥道に挑んだ。路面の状態に沿って車体が上下左右に揺れるが、どんどん悪路を突き進む。拍子抜けするほど普通に走るので、恐さも感じない。
路面状況でタイヤが滑ったり浮き上がったりすることもあるが、すぐに新機能の「ブレーキLSDトランクションコントロール」が作動し、タイヤの空転を抑えて駆動力を確保し、前進を続ける。ヒルディセントコントロールも効果的。アクセルを抜くと減速するので、ブレーキ操作も最小限にとどめられる。ドライバーは進みたい方向にステアリングを切り、必要な分のアクセルを踏むだけ。
今回はMT車なので、パワー供給に適切なギアを選択する必要がある。クラッチ操作は 容易で、エンストすることもなかった。試乗車がAT車でなかったのは、「拍子抜けするほど簡単に今回のオフロードコースを走り抜けてしまうから」(スズキ)という。悪路も涼しい顔で切り抜けられる、そんな実力を秘めている。
公道でも驚くほどの乗り心地
前モデルのジムニーは、高い悪路走破性を誇るも、日常での快適性に不満が残った。しかし、新型はそんなイメージを大きく覆す進化を遂げている。ジムニー・シエラで公道を走行したが、かなり乗り心地が良くて驚いた。新開発の1500ccエンジンは、パワーに余裕があり静かだ。
ジムニーとジムニー・シエラとを比較すると、パワー感と静粛性、コーナリング性能は、 シエラが一歩勝る。重量差は40~50㎏なので、パワーやトルクの差は小さくないし、大きいタイヤは走行安定性や乗り心地の両面で有利だ。ただ、エンジンを元気に回す軽快な走りがジムニーの魅力でもあり、前モデルと比べて街乗りでの快適性は大きく向上して いる。新型では、軽のジムニーか小型車のシエラか、大いに迷いそうだ。
「ライバルはいない」開発者インタビュー
試乗後に、新型ジムニー担当チーフエンジニアの米澤宏之氏にインタビューを行った。
――新型ジムニーで目指したものは?
最も過酷な環境で、仕事に使うプロを満足させるクルマにしなくてはならない。まず、維持するところと進化させるところを決めて開発を進めた。基本性能は、豪雪地域や山間部などでライフラインとしてジムニーを必要とする方たちにも役立つ。
――一般ユーザーの取り込みを意識した部分は?
徹底したジムニーの本物志向は、さまざまな分野で本物を求める人たちにも響くだろうと考えていた。実際、新型車の購入者には、ジムニー以外からの乗り換えの方がいて、顧客の年齢層の広さも感じている。SNSなどでの反響も大きい。
性能面ではオフロード走破性だけでなく、快適性の向上も図った。他の軽自動車が20年前とは大きく異なるように、ジムニーも20年分の進化があり、街中で乗っても違和感のないように仕上げた。
ジムニーに憧れながらも、ハードルの高さを感じていた人を考慮した面もある。ただ、一番はやはり仕事で使う人たちのこと。彼らもまた、オフロード以外も走る。舗装路での性能を磨いたというよりは、基本性能向上による相乗効果であり、特に新開発のラダーフレームの貢献が大きい。
――デザインでは、鮮やかなカラーやジムニーのアイコンを取り入れるなど、個性的でありながら、親しみやすい。新型のデザインで挑戦したところは?
実は、まったく冒険していない(笑)。デザインについても機能重視が基本。運転のしやすさと積載量を両立すると、自然と四角いフォルムになる。これがジムニーの機能美。それをデザイナーたちが現代風に仕上げてくれた。
ジムニーは“クロカン” SUVに寄せなくていい
――ライバルは?
ジムニーにはライバルはいない。世界中探しても、これほど小さくて手頃な価格の本格4輪駆動車はない。この点は我々が守るべきこと。だから、前モデルより進化させることを大切にした。ハスラーやクロスビーなど、スズキには小さなSUVもあるが、作る側からすれば、ジムニーはSUVではない。ジムニーは“クロカン”(クロスカントリー車)で、乗り味などもまったく異なる。SUVに寄せる必要もないと考えた。
――4速ATの採用など昨今の小型車と比べ、古典的な部分もあるなと感じる。
性能や使い方など総合的に見て、ATは4速で満足してもらえると判断した。他のことも含めて、お金をかけて高級感を出すなど色々なことができるだろうが、それでは意味がない。手ごろな価格であることが大切だからだ。
――新型もロングライフとなる?
前モデルのように20年作り続けるかは分からないが、モデルライフはロングスパンで考えている。ただ、自動車はいま100年に一度と言われる大改革の時。時代に合わせた進化や対応が必要。しかし、ジムニーが失われることはないだろう。
――現状、ジムニーの中では、小型車となるシエラの人気が高いようだが?
年間販売目標では、ジムニー1万5000台に対して、シエラは、1200台と10分の1以下。この数字は、前モデルの販売比率をベースにしている。このため、現状ではシエラのほうが納品に時間がかかる。ただ、新型では視覚的な差別化が上手く図れた。1500㏄の新エンジンの性能に期待する面も大きいのではないか。この2点が注目される理由かもしれない。
ジムニーは、独自の世界観を持つ唯一無二のクルマであることが分かった。この機能とサイズだから選ぶ人たちが存在する。それは日本だけでなく、世界に共通して言えることだ。ジムニーの大きなマーケットは、米国やドイツだという。ジムニーでしかたどり着けない、そんな場所で活躍しているそうだ。
時代に合わせて機能性や快適性が高められた20年分の進化は大きく、ジムニーは前モデルよりも身近になったと感じる。流行りの大きなSUVに乗るよりも、きっと面白いのではないだろうか。
(文・写真/大音安弘)
[ 日経トレンディネット 2018年8月6日付の記事を転載]
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