「桟橋」を渡って、未来の生活に踏み込む
会場はすぐ横が海という湾岸の立地を生かし、海に張り出した桟橋をイメージさせるつくりになっている。中央の太いウッドデッキから枝分かれして長く突き出た桟橋を渡っていくと、その先に12棟の「家」がある。狭い桟橋を渡ること自体を楽しませ、その先への期待感を抱かせる演出だ。
それぞれのエキシビションハウス自体は決して大きくはなく、むしろミニマルに要素をそぎ落とすことでコンセプトを明快に表現している。外観もほとんど白木か無彩色で、見た目の派手さはない。その分、中に入るとそのスケール感は等身大で、そこで提案されている生活に想像力が膨らむ。
気負わずにコミュニティに参加させてくれる家
会場の中央通路にあるのは、無印良品と建築ユニットのアトリエ・ワンによる「棚田オフィス」。もともと無印良品が行っていた、房総半島南部の釜沼集落との関わりから始まったものだという。農村の例にもれず高齢化の進む集落に、田植えや稲刈りの時期を中心に都会からの人手を集めるイベントを開催、その延長上でパソコン1台とネットワークがあればできる仕事を持ち込めるようにして、農作業とリモートワークを同時にできる「家」を提案した。
稲作は単なる経済活動ではなく、田と用水は日本の風景を作り、稲藁は生活用品から正月の注連縄にまで生まれ変わって文化を担ってきた。その生活文化を絶やさず、その風景の中で仕事のできる場をつくるアイデアだ。会期終了後には現地への移設が決まっている。
Airbnbと建築家の長谷川豪氏が吉野杉で知られる奈良県吉野町の協力を得て作った「吉野杉の家」も、会期後の行き先が決まっている。吉野杉とヒノキをぜいたくに使って作られた、縁側と小屋裏だけの小さな家。来訪者が泊まるための家であり、地元の人がふらりと立ち寄って縁側でひと休みできる家だ。観光客が到着してがらりと戸を開けると、地元のコミュニティーがもうそこにある。泊まっている来訪者が通りかかった地元の人にお茶を出して、地元の話を聞ける場でもある。そこではホストとゲストの関係がぐるりと一回転している。
杉とヒノキのよい匂いがする家は、いったん吉野町で建てられたものを解体し、吉野杉を熟知した地元の大工が東京の会場まで来て組み上げた。会期が終われば「里帰り」して実際に民泊施設となり、11月からはAirbnbを通して予約できるという。
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