“楽器玩具”の完成
また、カメラといえば旅の必需品で、そこも旅という点にフォーカスした製品であるGALAとの共通点だ。楽器とカメラというのも、古くからの大人の趣味の道具だし、カメラもGALAも古くなったからといって捨てるようなものではない。どちらも旅の記憶を喚起する道具でもある。そういう大きな視点で見たときの両者の共通点は面白い。
「もともとメンバーが旅好きで、旅に行くとその国の楽器を買ってくる癖がある。民族楽器は演奏方法がよく分からなくても、適当に鳴らしていると異国に連れていってくれるようなところがある。それをウチの子供がたたいているのを見ると、音で何か表現したいという気分は0歳児にもあるに違いないと考えた」と佐藤氏。佐藤氏は、GALAを“楽器玩具”と呼ぶが、それは楽器を作りたかったわけではなく、どこかの民族楽器風の何かを作ろうとしたのだそうだ。
そのため、製品としては、振るだけで楽しめるインターフェース、子供がかじっても大丈夫な木製の握りやすいもの、民族楽器の音が楽しめるもの、という条件をクリアする必要があった。
音は、実際の楽器の音をサンプリング。プロの演奏家に相談し、鳴らしやすい音の順番まで考えるなど、かなり細かく作り込んでいる。だからこそ、つい、いつまでも振ってしまう心地良さが生まれる。また、ガムランなどいくつかの楽器の音は、開発メンバーが実際に現地で購入した私物を使っているのだ。
工業製品としても、かなり特殊な作業になった。本体の握りやすい曲線とサイズ感、本体のつなぎ目のネジも木に彫るという木工技術の精密さ、ボディの曲線に合わせた木製ボタンの加工など、やっていることは木工工芸品レベルなのだ。効率が悪いが、だからこそ大手メーカーでは真似できない。また、木製だから、電子音として発せられる楽器音が柔らかく反響して聞こえるのも魅力のひとつだ。「手との会話を考えた」(佐藤氏)というだけのことがある出来なのだ。
そして、GALAには電源のオン/オフスイッチがない。強く振ると自動的にオンになり放っておくと電源が切れる。0歳児でも遊べることを意識した仕様も、簡単ではなかったという。
「結局、電源オフの状態から、振られたことを感知する電源オン用のセンサーを入れる必要があった」とエンジニアの加藤貢太氏は言う。また、この製品にはUSB端子が似合わないということ、また、世界中で使ってほしいということから乾電池駆動にしたという配慮も、電子楽器とアコースティック楽器の境界をまたぐ発想で面白い。それだけに、「木と基盤の接合部や、基盤をこのサイズに収めることなど、苦労がとても多かった」(メカニカルデザイナーの戸取祐樹氏)そうで、メンバーも話しながら当時を思い出して顔をゆがめるほどだった。
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