日本国内の飼い猫数は増え続け、約985万頭と1000万頭に迫る勢いだ。その約7割が外に出さず飼う“室内飼い”とみられているが、飼い主の一瞬の不注意で家から出てしまったまま戻れなくなる“迷子猫”もまた増えている。またどんなに注意をしていても、震災などが起こったとき、飼い猫とはぐれてしまう事態に不安を抱く飼い主も多い。
オープンストリーム(東京都新宿区)は、行方が分からなくなった猫をIT技術で捜索する“ねこさがしIoTサービス”「ねこもに」を開発。2017年6月19日に機器を発売し、サービスを開始した。Bluetoothの電波強度を手掛かりに、統計的なアルゴリズムにより飼い猫の位置を推定し、探索をサポートするサービスだという。
「ねこもに発信機」(実勢価格6900円)。通信有効距離は最大約75m(実測値。接続機器・使用環境に依存する)
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「ねこもに発信機ケース」(実勢価格1200円)
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「ねこもに」は、猫の首輪に付ける発信機と、iPhoneのアプリで構成されている。あらかじめスマートフォンに専用アプリをダウンロードし、飼い猫に発信機付きの首輪を付けておく。猫が逃げ出した場合、スマホのアプリを起動。通信有効範囲である最大半径75m(実測値)内に猫がいれば、発信機が放出するBluetoothの電波をスマホがキャッチし、スマホの地図画面に猫がいる可能性の高い位置を表示してくれる。
ケースに入れたねこもに発信機を、首輪に付けて猫に装着させる
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ねこもに発信機はケース無しでも装着させられる
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筆者宅にも猫がいるが、元ノラのせいか外への興味が強く、戸締まりを厳重にしていても脱走の不安がぬぐえなかった。そのため「ねこもに」が2016年10月に発表されてから発売を心待ちにしていたが、本当に離れ離れになった猫を捜せるのか、疑問もあった。そこで発売直前の「ねこもに」を借りて、実際に試してみた。
「ねこもに」スマホ画面。迷った場所をしばらく歩き、猫の位置情報をキャッチすると、猫がいる可能性が高い場所が黄色やオレンジになり、猫との距離が画面右に表示される
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友達で実験! 30分で見つかった
本物の飼い猫で実験し、万が一にも見失ったら大変なので、ねこもにの発信機を友人に持たせて試してみた。駅前で発信機を渡した後、近くを歩き回ってもらい、捜索してみた。
友人の姿が見えなくなって10分ほどたったところで、あらかじめインストールしていたアプリを起動。地図上にいきなり黄色のモヤモヤした模様が現れ、画面右側の「ねことの距離」欄に「20m」という表示が出た。あまりの簡単さに拍子抜けしたが、地図を見ながらその黄色が表示されている場所に移動すると、なぜか色が消えてしまった。
iPhoneに「ねこもに」をインストール
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最初に発信器をアプリに登録する
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たぶん、友人が移動し、半径75mの外に出てしまったのだろう。10分ほど駅のまわりを歩き回ったが、スマホ画面に黄色の表示は出てこない……。始めたころは小雨だったが、しだいに雨が激しくなってきた。駅の反対側に行くと、やっと黄色の表示が現れたが、同時に何カ所も現れては消えと、不安定……。後で知ったが、雨が降っていると電波が減衰しやすいとのこと。つまり、晴れた日よりも悪い条件で捜したわけだ。それでも30分たらずで再び黄色い表示が現れ、近づいていくとオレンジ色の濃い表示に変化。その場所にいる友人を見つけることができた。
駅で別れて10分後にアプリを起動すると、まず自分のいる範囲が円形に表示される。まだ位置を特定する表示は出ていないが、右側の「ねことの距離」を見ると、半径40m以内にいる可能性があることが分かる(オレンジの縦棒が表示されているのが現在の猫との距離)
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推定表示されたエリアへ歩いていくと、猫の位置推定が繰り返される中でエリア特定精度が向上。猫のいそうなエリアが絞られていく。少し移動すると、20mまで距離が縮んだ
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友人が移動したため、「ねことの距離」を表す縦棒が消滅。しばらく探して「半径75m以内にはいない」と判断。そのエリアの捜索に見切りをつけ、駅の反対側に移動
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10m以内にいると表示された! この直後に友人を発見
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こういう機器がないと猫を見つけるのは相当難しい
試してみてつくづく実感したのは、「こうした手掛かりなしに猫を捜すと、見つけるのは相当難しいだろう」ということだ。ねこもにを使えば絶対に見つかるという保証はないが、少なくとも「このあたりにはいない」という見当はつくし、他の場所を捜すことができる。何も手掛かりがなければ、いない場所をあきらめきれずにずっと捜し続けるかもしれない。その間に猫がどんどん遠くに行く可能性もある。
また、今回は人間に発信機を持たせたので見つけられたが、たとえすぐ近くにいたとしても、車の下に隠れていたり、物陰に身を潜めていたりしたら、見つけられないだろう(猫は、見つかりにくい場所に身を隠す習性がある)。たとえ隠れていても、スマホで「この近くにいる」ことが分かれば、集中して捜せるわけだ。あてもなく捜し続けるよりもはるかに効率的であり、心理的にも不安が少ないと感じた。
同社では、地域猫(その地域で管理され、地域で飼われている猫)活動をしている団体の協力を得て、約10日間にわたり、外にいる猫を捜すフィールドテストを実施したという。その結果、平均約2時間前後で見つかることが多かったという。2時間というのは、大抵の場合、最初の電波をキャッチするまでにかかる時間で、いったん電波をキャッチすれば、そこから猫の位置を特定できる確率はかなり高いとのこと。今回、自分で試してみても、同じ感想を持った。
フィールドテストで、隠れていた地域猫を発見したときの写真(写真提供:オープンストリーム)
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どうしても見つからないときは、ペット探偵が手伝ってくれる!?
懸念は、発信機の通信有効距離が最大約75mということ。75mというのは正直、かなり短い。フィールドテストでも、その距離まで近づくのに時間がかかることがわかっている。GPSなどを使えば、もっと広い範囲から電波をキャッチできるような気がするが……。
「確かに衛星から電波をキャッチするGPSのほうが幅広いエリアから特定できます。ただGPSは電池の消費量が多く、充電の頻度が高くなる。また猫の首輪に装着することを考えると、猫への負担を減らすために小さく軽いものでなければならない。GPSの部品はコスト高であることもネック。猫の捜索に特化したシステムの場合、電池の消費量が少なく長時間もつBluetoothを採用して軽量・小型化を図ることが現時点での最適解と判断した」(オープンストリーム)
確かに、猫を捕まえるのに何時間、何日もかかる場合もあるだろうし、捕まえる前に発信機の電池が切れてしまうようでは使い物にならない。ちなみに発信機のサイズは縦22.4mm×横44mm×厚さ8mm、重さ約10g。電池寿命は使用開始から約1年(使用状況により変動)。非常に軽いので、首輪に装着しても重量の差はほぼ感じなかった。
また同サービスには、家族や友人などとアプリを共有できる「もにとも」という機能があることも、通信有効距離の問題解消に役立ちそうだ。この機能を使えば、複数のスマホで猫もにの電波を受信できるので、広いエリアを手分けして捜すことができる。人数が増えれば75m圏内をキャッチできる確率が高まるわけだ。
同社では東京海上日動火災保険と共同で「ペット探偵による ねこ捜索サービス保険」も開発した。ねこもに発信機に“捜索費用補償特約”がついた「動産総合保険(偶発的な損害を補償する保険)」を付帯するという。これは簡単に言うと、発信機に損害が生じた場合の製品の交換と、万が一発信機を装着した猫が失踪した場合、ペット探偵(ジャパンロストペットレスキュー)による捜索を提供するもの。補償期間はねこもに購入後、専用アプリに発信機を登録した時点から1年(製品の交換送料、ペット探偵の交通費は別途必要)。ペット探偵による捜索サービスの提供は、1人で捜しきれない人、忙しくて捜す時間を取れない人に歓迎されそうだ。
実は同サービスは、同社が社内で開催した「新規サービス創造ワークショップ」の一環として開発された。猫好きや猫飼いのメンバーが多く、迷子猫の貼り紙を見て「ITで迷子猫の捜索が劇的に改善できるのでは」と感じたことがきっかけだという。「愛猫が逃げ出し、必死で捜し回った経験を持つ飼い主は多く、結局捜し出せないままということも少なくない。また災害時に愛猫とはぐれる不安を抱えている人も含めてニーズはかなり高く、将来的には約10万頭の利用を見込んでいる」(同社)という。
2016年10月に東京都武蔵野市で開催された猫イベント「むさしの猫のマルシェ」に設置された「ねこもに」ブース。多くの人が興味深げに立ち寄り、説明を聞いていた
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(文/桑原恵美子)
[日経トレンディネット 2017年7月3日付の記事を転載]
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