産学官で高齢者の健康を促進

 今回のプロジェクトは、産学官それぞれの狙いが込められている。検証のフィールドとなる富山市では、高齢者の交流促進や介護予防、さらには中心市街地の活性化につなげるのが狙い。

「富山発・高齢者向け ホコケンIoTプロジェクト」の関係者。左から、三協立山の山下清胤社長、富山市の森雅志市長、日本マイクロソフト執行役 最高技術責任者の榊原彰氏、三協立山特別顧問の藤木正和氏、富山大学の遠藤俊郎学長、同大学歩行圏コミュニティ研究会の鏡森定信顧問
「富山発・高齢者向け ホコケンIoTプロジェクト」の関係者。左から、三協立山の山下清胤社長、富山市の森雅志市長、日本マイクロソフト執行役 最高技術責任者の榊原彰氏、三協立山特別顧問の藤木正和氏、富山大学の遠藤俊郎学長、同大学歩行圏コミュニティ研究会の鏡森定信顧問
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 富山市の森雅志市長は、「昨年欧州を訪れた際、ポルトガル・リスボンは少子超高齢者社会となっていることを知った。一人暮らしの老人が増加し、孤独死も増えているという。アジアでも同様の動きが出てくる肌感覚がある」と述べた。富山市の高齢化率は27%であり、そのうち、要介護認定率は18.5%。高齢者に街歩きを楽しんでもらいながら、健康寿命の問題を緩和する一助にしたい考えだ。また、富山市では、観光客が自由に使用できる自転車を配備しており、それと同様に、観光客が利用できるカートを貸し出す仕組みを検討中だ。「富山市内は坂が少ないこともあり、カートを使った観光にも適している」という。

 今回のプロジェクトのベースとなった研究を7年前から行ってきた富山大学では、産学官民協働による歩行圏コミュニティづくりモデルの開発を目指す。

 同大学の遠藤俊郎学長は、「富山県は日本一の健康寿命県を目指しているが、自分の足で歩けることが健康寿命の定義のひとつといえる。富山大学としては、学術的な観点での成果や、健康に役立つものを提供するのに加えて、ホコケンのシステムを販売することも考えていきたい」と語った。

 さらに、プロジェクトで使用する「Surface付きクラウドまちなかカート」を提供した三協立山は、安全で使いやすいカートの知見を獲得するとともに、将来的にはカートの製品化に取り組む。すでに1台10万円でテスト販売も開始した。

 同社の山下清胤社長は、「まちなかカートの開発では、若手の技術者やデザイナーを参加させ、富山大学からもアイデアをもらいながら、安全性が高い強度の実現や路面電車の線路をスムーズに超えられる機能性を追求した。歩行保護車におけるフェラーリやF1カーのようなかっこよさを目指し、日本デザイン振興会のグッドデザイン賞も受賞するなど、デザインにもこだわった。今回のプロジェクトへの参加を通じてデータを得て、カートを改良し、動向を見ながらビジネスとして展開したい」と語った。

 「タブレット付きまちなかカートを使ってまちなかゆる歩き!!」の参加者は、まちなかカートを利用して街歩きを行ったあと、討論会に参加して、意見を交換。「文字が小さくて見にくい」「天気がいいと画面が見えにくい」「画面を見過ぎると、歩きスマホのような状況になって危険な場合がある」といった意見のほか、「店舗の情報が表示されることで街歩きが楽しくなる」といった評価が出ていた。また、「情報表示を自由に拡大できたり、その日の体調などにあわせて、お勧めのルートを提案したもらいたい」などの要望があがっていた。

参加者全員が討論会に参加して意見交換を行った
参加者全員が討論会に参加して意見交換を行った
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(文/大河原克行)

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