蚊は地球上の他の動物より、多くの人類を殺している

 ところで、蚊が媒介する感染症の予防は、もちろんジカ熱だけではありません。これは米国の公衆衛生上、ますます大きな課題になっています。CDCのトム・フリーデン所長がCNNの取材に対し、「蚊は地球上の他の動物より、多くの人類を殺しています」と答えたほどです。またビル・ゲイツ氏は自身のサイト「Gates Notes」上で、「世界で最も致命的な動物リスト15」を公表しましたが、これによれば1年間でサメは10人、ライオンや象は100人の人間を殺し、人間は殺人や戦争で47万5000人の人間を殺していますが、なんと蚊は、72万5000人の人間を殺しているというのです。巨大な象より小さな蚊のほうが、人類にとってははるかに脅威なのです。

 またWHOは21世紀における世界の公衆衛生上の脅威こそが感染症であり、地理的に歴史上のどの時代よりもはるかに速く、世界に広がっていると指摘。これは移動手段の発達によるもので、2006年には約21億人が飛行機で旅をし、世界のどこかで流行している感染症が、わずか数時間でどの国でも脅威となりえるといいます。また広がるスピードが早くなっただけではありません。感染症はこれまで以上に、発生率が上がっています。1970年代以降、新たな感染症が前例のないスピードで生まれ、ひと世代前には知られていなかったような感染症が40も出てきているのです。

 グローバル化、都市化や地球温暖化によって、私たち誰もが蚊が媒介する感染症のリスクにさらされています。2014年に日本でデング熱が流行したことは、記憶に新しいですよね。そして2016年はジカ熱の脅威です。北半球に暑さが戻ってきて、日本でもジカ熱の感染が拡大する十分に危険はあります。

 先日「日本の虫除け剤の効果持続時間は短すぎる!?」という記事でも紹介しましたが、日本製の虫除け剤は海外製に比べると、ディートやイカリジンなどの虫除け成分の濃度が低いため、効果の持続時間が短いことが知られるようになってきました。そんな中、2016年6月21日、ジカ熱やデング熱などの感染症を媒介する蚊やダニの対策のため、厚生労働省は有効成分の濃度を高めた虫除け剤の製造販売の申請を早期審査の対象にすると公表しました。早ければ9月末までには承認されるとのこと。現状、ディートが12%以下、イカリジンが5%以下となっていますが、これをディートは30%、イカリジンは15%まで濃度を高めた製品が承認されることになりそうです。

 こうした虫除け剤を利用しながら、まずは個人ができる予防は徹底したいですね。

筆者:大西睦子(おおにし・むつこ)
医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。