一番貢献できるものは数学だった

高橋: 堀口さんが答えられるかどうかは別として、あえて聞きたいんですけど。

堀口: ぜひぜひ。

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高橋: 堀口さんみたいに、こんなに好きなものがある大人は少ないと思うんです。だから、すごく幸せな状況なんじゃないかと思って。僕もやりたいことはあるけど、わりと浮気性というか、いろいろなことに関心を持ちがちで、「これに全てをかける」みたいなモノがないんです。

堀口: 昔の自分を振り返ってみて、やりたいことがあったのかというとそういうわけではなかったんですよ。今、数学に関する仕事ができているのはありがたいんですが、「たまたま」だったと思っています。「何か得意なことはないですか」と聞かれて、数学だったら他人よりできるかなと思っただけなので。誰しも何か1つくらい、自分ではあんまり得意と思ってないんだけど他人から見たら才能があるように見えるものを持っていて、きっかけがあれば何かにつながってくるんじゃないでしょうか。

高橋: 堀口さんがいろんなアルバイトにチャレンジしたのも、やっぱり何かにつながっているんでしょうね。

堀口: そういえば、人生が変わったきっかけがあるんですよ。ヒッチハイクをやっていたことがあって、そのときにトラックに乗せてくれた運転手が「忘己利他」という言葉を教えてくれたんですよ。自分のことを忘れて他の人々のために尽くせという仏教用語なんですけど。それまでは「いかに自分が得をするか」ということを考えて生きてきた部分があったなと、この言葉を聞いて改めて思ったんです。それからは「他の人にもっと幸せになってもらうために何ができるか」というようなことを考えるようになりました。そのとき働いていた弁当店で、お客さんがより喜んでくれるために決められたこと以上の仕事をしたり、みんなが気持ちよく働くために調理場やスタッフルームの掃除をがんばるとか、そういう小さいところから始めていったら他のスタッフにも感謝してもらえるようになって。コーチングも人のためにやろうと思って始めて、結局うまくいかなかったけれど、その経験によって大人向けの数学塾というのを見つけられたので。人に貢献したいというのが根本にあるんですよね。

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高橋: 最終的に、一番貢献できるものは数学だったことに気づいたというわけなんですか。

堀口: そうですね。人に対して貢献できるものが数学だった。他の人ができなくて、自分にしかできないことといったら、最後に数学が残ったという。本当にありがたい話です。

(文/樋口可奈子、写真/シバタススム)

筆者・インタビューアー/高橋晋平(たかはし・しんぺい)氏

1979年生まれ、秋田県出身。株式会社ウサギ社長。大手玩具メーカーに10年間勤務し、数多くのヒットアイデア玩具の商品開発に携わる。著書に『プレゼンをキメる30秒のつくり方 話し下手でも提案が通る勝ちパターン』(日経BP社)、『アイデアが枯れない頭のつくり方』(CCCメディアハウス)など。2013年にはTEDxTokyoにも登壇。現在はアイデア・コークリエイターとして、さまざまな企業と新商品・新サービスの企画開発を行っている。アイデア評論家・セミナー講師としても活躍。ブログTwitterでも情報発信中。 2017年5月14日に、カードゲーム「民芸スタジアム」を発売。

日経トレンディネット 2017年6月9日付の記事を転載]

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