受験数学しか教えられなかったのが不満だった

高橋: 授業料を拝見したんですが、決して安くはないと思うんです(編集部注:ひとコマ50分で7000~9500円)。

堀口: 確かに、あまり安くはないかもしれないですね。

高橋: でも、それだけの金額を払っても全然構わないというか、それ以上に満足して感動するわけですよね。だからたぶん、数学ってそのくらいの力があるんだと思うんです。もしかしたら結果論かもしれないけど、堀口さんがそこまで数学を愛していたから、うまくいったのかなと思って。

堀口: 塾でのアルバイト時代に不満だったのが、受験数学しか教えられなかったことだったんですよ。どうやって点数を上げるかという授業をずっとやってきたんですが、ある日、中学校2年生向けの授業で数学の面白い小ネタとか、数学と現実のつながりとか、宇宙のはじまりみたいな話をしてみたんです。試しに1回やっちゃえという感じで。そうしたら結構盛り上がったんですよ。だけどあとで塾長に「何やっているんだ、ふざけるな」と怒られてしまって。

高橋: でも僕はさっき微分・積分について教えてもらって、高校時代、なぜ物理と数学がまったく切り離されていたのかということを疑問に思ったんですよ。だって数学で突然、微分というものが現れて、解き方はこうで、X2乗の場合は、微分すると次数を1個さげて2を前に付けるんだと。いきなり数式をいじりだして、えっみたいになるわけじゃないですか。一方、物理では、やっぱりそれと同じ何とか2乗の式が出ていて、放物線とか、落下みたいなのは教わる。さっき同時に説明してもらったら、いろんなことが結びついて、面白いと思ったんです。学生時代は、それぞれの教科で高得点を取るためだけに勉強していたから。

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堀口: 塾講師の中には、数学が世の中でどう使われているのかという目的を話したくてしょうがない人もいるんですよ。例えば関数と数列とかってまったく別物として習いますけど、これもつながっているわけですよ。関数を点にしたのが数列なんです、本当は。さらに数列の和ってありますよね。数列の和と積分って、実は一緒の発想なんですよ。

高橋: えー。

堀口: 一緒なんですけど、別物として扱っているんですよ。

高橋: そうか、数列の和は積分なんだ。

堀口: 単に数字を足していくだけなので、ざっくりいえば積分なんです。高校数学も分野をつなげて考えると面白いんですけど、面白いと思わせるようには教えてはくれないし、あくまでも基本的なテクニックとしてしか学んでないという。

高橋: なるほど。

堀口: だから、そういう話をしたくてたまらないという人を、講師として集めたんですよ。

高橋: どうやって探したんですか。

堀口: 特別なことはしてないんですよ。ただ、「うちの塾だとそういうことを話せますよ」とウェブサイトやツイッターでアピールしていたら自然と集まってきたんですね。「何か面白そうなことをやっていますね」という感じで。でも、採用率10%くらいです。こんな塾はあり得ないんですけどね、普通は。

高橋: なるほど。じゃあ、もう厳選して。どういう基準で選んでいるんですか。

堀口: 「お客さんの話を聞けるかどうか」。シンプルですけど、これが最重要ポイントです。例えば微分・積分を学びたいという人に、いきなり微分・積分の授業を始めるのはアウトなんです、うちでは。微分・積分を何のために学びたいのかを聞くところから始まっていって、それをどこに生かしたいか、あとはどういう話を望んでいますかとか。授業のパターンも何種類かあって、質問形式なのか、それとも演習を中心にやりたいのか、それとも取りあえず概念だけ、イメージだけ把握したいとか。それを分けられるかどうかなんですが、ベースになっているのがお客さんの話を聞けるかどうかです。

高橋: 大事ですよね。

堀口: 数学の先生とか、人の話を聞かない人が多いので(笑)。生徒から「数学を勉強することにどんな意味があるんですか」って聞かれて「とにかく将来役に立つから勉強しろ」と答えるような教師は多いですよね。うちの塾では、お客さんからの質問にはちゃんと答えるようにしています。だから、うちの講師への満足度は高いですよ。私も自分自身でお客さんに授業を始めたときに感動しちゃったんですよ。「好きなことを話しているだけなのに、喜んでもらえるし、仕事にもなるんだ」って。

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