2016年5月26日、スマートフォン向けゲームなどを手がけるコロプラの100%子会社である360Channelが、オリジナルの360度動画を配信するサービス「360Channel」を開始した。視聴は無料だ。
360度全方位に視点を動かして視聴できる動画を配信しているのが特徴だ。スマートフォンやパソコンでも視聴できるが、VR用のヘッドマウントディスプレイ(HMD)で視聴すると、自分の周囲がすべて映像で覆われたような感覚で視聴できる。HMDはサービス開始時点で「オキュラスリフト」、サムスンのスマートフォンを取り付けて使用する「Gear VR」に対応しており、その他のHMDにも順次対応していく。
コンテンツは、サービス開始時点で「バラエティ」「旅行」「ライブ」「体験」「ドキュメンタリー」など6カテゴリーのチャンネルがあり、1本5分~10分前後の番組を20本以上用意している。チャンネルや番組は今後継続的に更新していく予定だ。サービス開始時点ではすべて自社製作の番組だが、将来的には他社のコンテンツの配信に取り組みたいといしている。
HMDのほか、一般のスマートフォンやパソコンでも視聴できる (c) 2016 360Channel, Inc.
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360Channelは2015年11月に設立された会社で、テレビ番組などの製作経験のあるスタッフが製作にあたっている。360度動画の企画・撮影のノウハウや、撮影した動画をつなぎ合わせて1本の動画にする“スティッチ”と呼ばれる編集技術など、360度動画を製作するための様々なノウハウを社内で蓄積していることが強みで、360度動画を素早く製作できる体制や配信プラットフォームの構築を目標にしている。
視聴は無料だ。現在はユーザーに360度動画を広める段階であり、将来的には番組に対するスポンサードなどで収益を上げたいという。
360Channelはコロプラの100%子会社で、製作や配信のノウハウを蓄積し、360度動画のテレビ局のような存在を目指している (c) 2016 360Channel, Inc.
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GoProを7台使ったカメラで撮影
配信している360度動画の撮影には、GoProのアクションカメラを7台組み合わせた独自のカメラシステムを使っている。一般的に360度撮影をする場合は6台組み合わせることが多いが、映像のつなぎ目を目立たないようにするために7台使うことにしたという。
360度動画の撮影時にも、出演者が各カメラのなるべく正面に映るようにして、映像のつなぎ目に顔が入らないように注意するなど、独自のノウハウが数多くあるという。
撮影に使われている、GoProを7台組み合わせて作った独自の360度撮影カメラ。持ってみるとコンパクトで軽い。これをスタンドに固定して撮影している。音声はマイクを別に立てて録音している
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思わず身体が反応しちゃう興奮の視聴体験
この360Channelを早速体験してみた。体験に使ったのは、サムスンのスマートフォン(Galaxy S6/S6 edgeなど)を取り付けてVRを体験する機器「GearVR」だ。すでに市販されていて実売価格は1万5000円前後。
6つのチャンネルのうち、とにかくまず体験してみたかったグラビアアイドルが出演するバラエティー番組を視聴してみた。番組はスタジオの一室で、中央の机の上にカメラが設置され、そこを出演者が取り囲んでいる。頭を動かして周囲を見渡すと、どの向きにも出演者がいる。頭を上下に動かすと天井や足元も見える。目を凝らしてみても映像のつなぎ目は全く分からず、自分が動画の中にいるような、その場に自分がいるような臨場感がある。
映像が切り替わってグラビアアイドルが目の前に寄ってきたり隣に座ったりといった視点になると、本当にすぐ側にいるように感じて思わず誘惑されてこちらも身体が動いてしまう。以前に「PlayStation VR」向けコンテンツの「サマーレッスン」を体験したことがあるが、その実写版のような感じだった。
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Gear VRを使ってVR視聴を体験してみた。VR用HMDで視聴していると、リアルすぎて思わず身体が反応してしまう
アクセスするとメニューが表示される。操作は見たいチャンネルや番組を選ぶだけだ (c) 2016 360Channel, Inc.
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おそらく世界初という、360度動画バラエティー番組。普通のテレビやスマホでは味わえない、相手が目の前やすぐ隣にいるような感覚がグっとくる (c) 2016 360Channel, Inc.
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「ANA機体工場」を360度の視点で見学する
続いて「ANA機体工場見学」を視聴してみた。これは羽田空港にあるANAの機体工場で整備中の旅客機を、整備士のような視点で見られるというもの。普通なら近づけないコックピットや尾翼など機体各部のすぐ間近の映像を、360度の視点で楽しめる。足元を見れば足場が組んであり、上を見上げれば工場の天井が見える。すぐ目の前に機体があるような感覚で、後ろや横から説明役の声が聞こえてくるのがリアルだ。社会科見学のようでこれは楽しかった。日本の名所を紹介する旅番組「日本の旅」も同様で、実際に現地にいるような気分が味わえた。旅番組と360度動画は相性が良さそうだ。
そして「熊本地震 ~被災地の記録~」を視聴した。これは4月14日の地震発生の約10日後に、熊本各地を360度カメラで急遽記録したものだ。一般のテレビ放送や写真よりもずっとリアルに被害の大きさを実感できた。これが360度映像の没入感による効果なのだろう。こうした報道色の強い番組も作成していきたいとのことだった。
「ANA機体工場見学」は、整備士になったかのような視点で飛行機の各部を見られる (c) 2016 360Channel, Inc.
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被災地にカメラを持ち込んで撮影した「熊本地震 ~被災地の記録~」。被害の大きさがリアルで実感できる (c) 2016 360Channel, Inc.
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こうしていくつかの番組を連続して視聴してみたが、いずれも映像のつなぎ目は感じられず、とても自然に360度全周を見渡すことができた。映像のどこかが歪んでいたり、一部が暗く見えたりといったことはなかった。また、ユーザーインターフェースがシンプルで操作が分かりやすいところも好感触だった。
そして視聴し終わって印象に残ったのは「疲れにくい」ということ。立体視のVRコンテンツを視聴し続けていると、だんだん眉間がむずがゆくなるような疲れが溜まってくる。こうした感覚が不快でVRコンテンツが苦手という人もいるだろう。しかし「360Channel」は一般的な平面の映像をつないで360度パノラマの動画にしているため、こうした立体視のVRコンテンツにありがちな不快感があまりない。約30分ほど視聴してみたが疲れはなく、もっと長時間視聴できそうだった。
前述のようにパソコンやスマホでも視聴できるが、このサービスの醍醐味である自分が動画の中にいるような感覚を味わうために、HMDで視聴することをおすすめしたい。HMDはまだ登場したばかりで、立体視でゲームを遊ぶためのものというイメージになりがちだ。しかし新しいタイプのディスプレイとして、こうした動画視聴などゲーム以外での利用が普及のカギになるのではないだろうか。
(文/湯浅英夫=IT・家電ジャーナリスト)
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