「ちょうどよい味」を認識させる別バージョンの存在

 一番搾りには固定ファンがおり、新商品や味の違いを打ち出すことでファンが離れてしまうリスクもあります。それでも特別バージョンを出すのは、その効果がロングセラー商品であるほど有効だからです。

 変化は飽きを回避する最も有効な方法。インスタント食品がおいしくても飽きるのは、いつ食べても同じ味だからです。手作り料理は全く同じ味を作ることは困難ですが、塩の加減やうまみの強弱といった味の違いによって「自分にとってちょうどよい味」を認識することができるのです。

 一番搾りも都道府県ごとにコクやキレの違う商品を出すことで、「ああ、やっぱりいつもの一番搾りがおいしい」という自覚を引き出すのが狙いの一つでしょう。これによって、固定客は支持する商品へのロイヤリティ(信頼感)を確認できるわけです。

 特別バージョンを展開することで、変わらぬ味を「ちょうどよい味」としてずっと飲み続けてもらう。増え続ける多彩なクラフトビールへの対抗策として有効な作戦だといえるのでないでしょうか。

執筆者/菅 慎太郎(かん しんたろう)

1977年埼玉県生まれ。口福ラボ代表。味香り戦略研究所味覚参謀(フェロー)。「おいしさ」の表現を企画する口福ラボを主宰し、地方創生における6次化商品の開発や、「食×観光」の事業モデル構築を各地で手掛ける。味香り戦略研究所では「味覚参謀(フェロー)」としてマーケット分析、商品開発の支援を行う。一般社団法人日本味育協会認定講師。