「通話し放題」「スマートフォン」のけん引役にも
その一方で、大手携帯キャリアに押されてPHS事業者は減少の一途をたどり、KDDIから2004年に独立したウィルコム1社のみとなってしまった。
それでも、その後もPHSは携帯電話業界にいくつかの大きな影響を与えた。
1つは「音声通話定額」だ。PHSは音質の良さに定評があったことから、ウィルコムは2005年に、同社端末同士の音声通話が定額でできる「ウィルコム定額プラン」を開始した。これがコミュニケーション・ニーズの高い若い世代に受け、「HONEY BEE」などのヒット端末も生まれた。
経営破たんを経てソフトバンク傘下となったあとも、ウィルコムは通話定額で新サービスを生み出した。それが2010年に提供された「だれとでも定額」だ。相手を問わず10分間の通話がひと月当たり500回まで無料でできるというこのプランは、音声通話を頻繁に利用するビジネスマンから高い支持を得た。現在大手キャリアなどで一般的な「5分間通話定額」サービスの先駆けにもなっている。
そしてもう1つが「スマートフォン」だ。ウィルコムはiPhone登場以前の2005年、マイクロソフトのOS「Windows Mobile」を搭載したスマートフォン「W-ZERO3」を発売した。当時大手携帯キャリアは、データ通信の急増がネットワークに悪影響を及ぼすことを恐れ、スマートフォンの導入に消極的だった。だが、ウィルコムはPHSの特徴を生かしたパソコン向けの定額データ通信に力を入れていたこともあり、データ通信の利用が主体のスマートフォンの提供にいち早く踏み切ることができたのである。
その結果、W-ZERO3は日本でのスマートフォンの発売を待ち望んでいたIT先進層の関心を一手に集めてヒットを記録。iPhoneが登場するまでは、スマートフォンをけん引する存在となったのである。データ通信に強みを持つPHSがスマートフォンの利用を広める下地を作り上げていたというわけだ。
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