約1億円で古い木造校舎を購入

 秋津野ガルテンは2008年11月に開業。敷地内には、地産地消のスローフードレストラン「みかん畑」と宿泊施設、菓子作り体験工房「バレンシア畑」などがある。その中心にあるのが、旧上秋津小学校の木造2階建て校舎だ。

 1953年に建てられ、2006年まで利用されたが、小学校の移転計画と同時に更地にし、宅地分譲することが決まっていた。

 当時は、2005年の市町村合併により全国で廃校活用の機運が高まっていた頃。農村では珍しく上秋津は人口が増えていたが、地域資源活用策のひとつとして、木造校舎を買取り、地域で運営する方針を固め、行政を説得した。校舎と土地の購入金額は約1億円。失敗すれば、それまで築いてきた地域の絆まで失ってしまいかねない。「もともと地域で管理していた財産を活用したが、買取るかどうかを決める総会ではけんけんがくがくやりあった。70代の男性が『彼らに託してみよう』といった一言で賛成多数となり、買取が決定した」と、玉井社長は振り返る。

 地域づくりでもっとも難しいのは、いかに住民の合意を得るかという点にある。そのため、上秋津では、いまから20年前、地域の全組織からなる地域づくりの団体「秋津野塾」を発足。さらに2000年から2年半をかけて、住民の声を基に10年先を見据えた地域づくりの基本計画を作成した。マスタープランは一冊の本にまとめられ、住民に配布。「秋津野塾 未来への挑戦」と題した本のなかには木造校舎再活用への思いもつづられ、秋津野ガルテン実現の大きな原動力となった。

10坪の直売所が始まり

 秋津野ガルテン立ち上げのモデルとなったのが、農業法人「きてら」だ。全国各地に直売所が登場し始めたころ、地元住民の声がきっかけとなり、10坪弱のプレハブ小屋から出発した。地域初の直売所で、31人の出資者には、農家だけでなく、商売人や職人、他地域から移住してきたサラリーマンなども名を連ねた。のちに地域以外からも応援団を募り、当初は赤字経営が続いたが、危機を救ったのが、みかんや特産品を箱詰めにして宅配便で届ける「きてらセット」。この地域では80種類もの柑橘類を生産し、年中収穫できる。「その強みを生かしたい」という農家の声から生まれた商品は、歳暮、中元などの贈答用として人気を博し、ドル箱商品になった。毎年1500~2500個の注文があり、直売所の売上げは3年後4500万円を達成。2003年には20坪の直売所を新築し、地元女性が活躍できる加工施設も併設した。

 加工施設で作った生搾りのみかんジュースが好評だったことから、2004年には31人が50万円ずつ出し合ってジュースの加工販売事業に参入。「農協では1キロ50円にしかならない3級品を100円にしたいという思いもあった」という。完全無添加・無調整のみかんジュースは、「俺ん家ジュース」として秋津野ガルテンでも販売。レストランでは1人1杯に限定されるほど人気がある。

 創業から18年。きてらの顧客は9万人近くに上り、年商は1億5000万円に増えた。玉井社長はいう。「自分たちがつけた値段で売れて、きちんと利益も出る。いままで引き出しにしまっていたものを1個ずつ出しながら売るための仕組みを作り、ネットワーク化していったことが、いまにつながっている」。

この地方の方言で「どうか来てください」という意味の「きてら」を店名にした農産品直売所。利用者の7割以上が田辺市民で、約3割は市外から訪れる
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衛生的な環境の下、米国製の搾汁器を使い、みかんひとつひとつ投入して絞った「俺ん家ジュース」。温州みかん(700ml)は1本700円
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直売所で扱う商品は、果物、野菜、花、漬物などの加工品を中心に約200種類。当初70人余りだった出荷者も200人を超え、高齢者の生きがいの場にもなっている
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