4月14日から16日にかけて、マグニチュード6.5から7.3という非常に大きな地震が立て続けに発生し、熊本県を中心として大きな被害をもたらした。執筆時点(4月21日)では大きな地震こそ減少しているものの、被害が非常に大きいことから復旧には時間がかかるものと見られ、今なお多くの人が避難生活を送っている。被災された方々に心よりお見舞い申し上げるとともに、いち早い復旧・復興を心から祈っている。

 一方、熊本地震の発生以降、携帯電話やスマートフォンを使った災害時の連絡の取り方に対する関心が高まっている。災害時に携帯電話などを使って安否確認などの連絡を取る際、どのような点に注意する必要があるのかを、改めて考えてみよう。

「LINE Out騒動」が起きる

 実は今回の熊本地震に関して、ネット上でちょっとした騒動が起きていた。それは、LINEが4月14日の地震発生直後、支援策として打ち出した「LINE Outを10分間無料で利用できるようにする」という施策に関してである。

 LINE Outとは、LINEの無料通話(IP電話)の仕組みを用い、有料で固定・携帯電話に電話がかけられるサービス。国内だけでなく、海外の相手に対しても安価な料金で電話がかけられるのが、大きな特徴となっている。

LINEのIP電話の仕組みを用いて、有料で固定・携帯電話に発信できる「LINE Out」。熊本地震発生の際にLINEが打ち出した、LINE Outに関する施策が批判されることとなった
LINEのIP電話の仕組みを用いて、有料で固定・携帯電話に発信できる「LINE Out」。熊本地震発生の際にLINEが打ち出した、LINE Outに関する施策が批判されることとなった
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 LINEはこのLINE Outを、熊本地震で被災した人の安否確認などに使ってもらいやすくするよう、善意でLINE Outを10分間無料で利用できる施策を打ち出した。しかしながらその直後から、「LINEの施策はかえって被災地に迷惑をかけるのではないか」と問題視する声が相次ぎ、結果としてLINEは、LINE Outを緊急時以外は利用しないよう案内するなどの対応に迫られることとなった。

 では一体、なぜLINEが打ち出した施策が、被災地に迷惑をかけるとして批判されたのだろうか。

 その理由から、大規模災害時の適切な安否確認方法が見えてくる。

被災地の電話回線が混み合ってしまう

 LINE Outの10分無料化が問題視されたのは、「LINE Outが固定・携帯電話に電話をかける仕組み」であるためだ。

 LINE Outは通常のLINEの無料通話とは異なり、発信側こそIP電話、つまりパケット通信となるが、着信する側は通常の音声通話と同じ仕組みを用いる。

 通常の電話は、1つの回線を複数の通信で共有するパケット通信とは異なり、安定した通話品質を保つよう、1つの回線を占有する「回線交換」という仕組みをとっている。そのため、被災地に通話が集中してしまうと回線が不足し、つながりにくくなったり、最悪の場合システムがダウンして110番や119番などの緊急通報さえできなくなってしまうなど、電話が混み合う「輻輳(ふくそう)」状態に陥ってしまうのである。

 もちろんそうした問題が起きないよう、通話が殺到した場合は、その地域に向けた通話発信に規制をかけるなどの対応が取られる。だがそれでも、被災地への発信が多ければ多いほど、規制が長引くという問題も抱えてしまう。

 そうした状況でLINE Outの10分間無料化がなされたわけだが、時間限定とはいえ無料で通話ができることから、被災地にLINE Out経由で電話をかける人が急増する可能性が高まる。このことは、ただでさえ深刻な被災地の電話回線の輻輳を、一層助長してしまうことになりかねない。そうしたことから、LINEが打ち出した施策は問題があるとして批判されたわけだ。

 災害発生直後は、被災地の相手の安否をいち早く確認したいことから、焦って電話を電話をかける人が多く、通話が殺到しやすい。だがそもそも被災している側は、災害発生直後は命を守るため必死に避難している可能性も高い。それだけに、災害発生直後の音声通話が適切な連絡手段とは限らないことも覚えておきたい。