引っ込まないノックボタンは「書く」ことへのこだわり?

 「3年前、ノック式の消せるボールペンの開発が始まったときにまず考えたのは、『消せる』以前に、普通のボールペンとして使い勝手が良いものにしたいということでした」と、開発の経緯を話してくれたのは、三菱鉛筆横浜研究開発センターの並木義春氏。

 「消せる」ことを重視したフリクションボールに対して、アールイーは、ボールペンとしてスムーズに書けることをまず優先。そのうえで「消すためのラバーをどこに付けるかについても、ペン先に付ける、クリップに付けるなどの可能性を探りました。ペン先だと消すときに一度芯を引っ込めて、また使うときに出してと、ワンアクション増えてしまう、などと細かく検証しました」(並木氏)。

アールイーの開発を担当した、三菱鉛筆横浜研究開発センターの並木義春氏
[画像のクリックで拡大表示]

 その結果、やはり尻軸にラバーがあるのが操作性が良いという結論に達したという。並木氏は「ノックボタンをノックして書く」という誰もが慣れている操作と、そのノックボタンに付いているラバーで文字が消せる、つまり、ノックボタンが引っ込まずに安定して文字をこすって消すことができるという機能を両立させるメカニズムを考えた。

 「シャープペンシルと違ってボールペンはリフィルが本体の80mmくらいまで来るので、残った30mmの中にラバーが引っ込まないメカニズムを入れなければいけないんです。とにかくスペースがない。それで、いろいろと試した結果、リフィルの周りを囲むような形のメカニズムにすることにしました。そうすれば、ペン自体の長さや太さをあまり変えずに、普通のボールペンの形状のまま、メカニズムを組み込めると考えたんです」と並木氏は話す。

このように、尻軸のラバーでこするとインクの色が透明になる
[画像のクリックで拡大表示]

 ノックはできるのに消すときは引っ込まないノックボタンの構造が生まれるまでの試行錯誤の跡を見たが、試作品はかなりの数。なかには3Dプリンターで作った、メカニズムが実際に動くモデルもあり、その苦労が偲ばれた。

このメカニズムにたどり着くまでの試作品の数々。一番左が完成品だ
[画像のクリックで拡大表示]

 そうして出来上がったのが、ギザギザの付いたパイプが軸内をスライドする方式だ。

 ペンが下や横を向いている状態では、パイプは下側にあるが、ペンを上に向けるとパイプが尻軸側にスライドする。ギザギザがノックボタン下部のメカニズムに当たると、ノックボタン側のメカニズムが回転してロックがかかるという仕掛け。ペン先を下に向けると、ギザギザのパイプが下に下りてロックが解除され、ノックボタンを押すことができるわけだ。

 「このメカニズムを考えた段階で、ノック式の消せるボールペンは作れると思い、そこからインクや素材選び、デザインなどを本格的に始めました。ここまで1年くらいかかりました」と並木氏。製品がほとんど完成するというころに、ゼブラから「デルガード タイプER」が登場した。ゼブラのひっくり返すと消しゴムが現れるメカニズムを見て、「構造も意図も違うが、自分がやっている方向は間違っていない」と並木氏は勇気づけられたという。

アールイーの売り場用器具に用意されている、ノックボタンの仕組みを見ることができるサンプル。この写真のように、赤いパーツが筆記時は下がっていて、ノックボタンが押せるようになっている
[画像のクリックで拡大表示]
ひっくり返すと、赤いパーツが下がってノックボタン下部のギザギザとかみ合う。そのときにロックがかかる仕組みなのだ
[画像のクリックで拡大表示]