ポリ袋とペットシーツで生き延びる?

 多くの防災グッズが売られているが、坂本氏は「阪神大震災のときはキッチンなどで日常的に使っているものがとても役に立った」という。例えば大小のポリ袋はさまざまな使い道があるので、多めにストックしておくといいそうだ。

 特に役立つのが、ライフラインが破壊され、水で手や食器を洗えないとき。「被災地の病院が機能できていないときに、最も怖いのは子供が食中毒などでお腹を壊すこと。脱水症状になると水分を摂っても身体には吸収されないので、早急に体内のミネラルバランスを調整するには点滴しか方法はありません。でも被災してすぐには病院に行けない、病院に行けたとしても点滴ができなければ不幸な結果になることもある。それを避けるため、食べるものは清潔で安全なものであることが、災害時こそ絶対に必要なのです」(坂本氏)。

 食中毒防止の3原則は、ばい菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」こと。手にばい菌が最も多くついているので、水がなく手が洗えないときは食材に触らないで清潔に料理をするのにポリ袋が役立つ。食器が洗えないときは食器にポリ袋をかぶせて食べれば問題ないし、水をためて運ぶこともできる。大型のポリ袋なら防寒・雨よけ用のカッパにもなる。また衛生対策として重要なのが水が止まったときのトイレ問題だが、ポリ袋、ペットボトル、新聞紙があれば、「3分別トイレ」で衛生的に処理できる。

 体温が下がりやすい子供には紙おむつやペットシーツも役立つ。床などの上に寝なければならないときには、大きなポリ袋に二重に敷きつめると、地面からの湿気で体が冷えるのを防げる。また身体に巻くと、ポリ袋やエマージェンシーブランケットを直接巻いたときのように湿気がたまらず、保温にも役立ち、おねしょ対策にもなる。 

ポリ袋の簡単カッパの作り方(1)できるだけ大きなポリ袋を用意する(2)開口部でないほうの上から幅3センチくらいを顔が入る長さまで切り込みを入れる(3)下から3分の2のところに縦に切り込みを入れ、手を出す穴を作る
「3分別トイレ」でトイレ問題を解決。(1)便は新聞紙を箱型に折ったものを使用してポリ袋へ入れる。(2)尿はペットボトルの上の部分をカットしてボトル部分にビニール袋をかぶせ、上部をじょうごの形にして、尿をとる。口を結んでポリ袋に入れるようにすれば清潔に処理できる。(3)汚染源となる便と尿を混ぜ合わせると発酵が起こりやすくなるので、汚れた紙は空気にふれないよう、ポリ袋に入れ両端を折りたたんで捨てる。尿・便・紙と3つに分別し、ふた付きの大きな箱に大きなポリ袋を入れたものにためておき、衛生上の心配のないところに置いておく。個別に回収することで衛生上の安全を保つことができる

避難袋に入れるなら、チョコレートより「ようかん」

 小さな子供がいる家庭の場合、避難袋にぜひとも常備しておきたい食品は、豆製品だという。それは脳が完成している大人と違い、発達途上の子供の脳は脳を作る素材である必須アミノ酸を常に必要としているからだ。「必須アミノ酸が極端に不足すると、脳の発達が止まるだけではなく、今まで発達してきた状態も失うことになってしまう。海外の飢餓地帯などでは、脳の成長期に極端なたんぱく質不足に陥ったことが原因で、体は大人になっても脳は子どものままになってしまう例も多くみられるのです。『食べられるようになってから』では遅い場合もあります。被災時はともかく栄養を切らさず、子どもの脳を守らなければなりません」(坂本氏)。

 冷蔵を必要とする肉や魚、卵などの動物性たんぱく質は、被災時に安全に手に入れることは非常に難しい。だが食べものが必要量の半分しか入手できないときでも、そのうちの10~20%(重量比)を豆に置き換えることができれば、子どもの脳は発達するといわれているそうだ。

 避難袋には、何かしら豆製品を入れておくことが重要。レトルトパックになっている煮豆は賞味期限までに食べて次を購入する〝回転備蓄〞向きだし、ようかんは脳のエネルギーとなる糖分を含んでいるので低血糖も防げる。調理しやすい煎り豆、粉状なので飲み物に入れたりおやつにかけて食べたりしやすいきなこなども便利とのことだ。

離れ離れになったときの準備も重要

『くらしの防災 いのちを守り「災後」を生きるために』(坂本廣子・坂本佳奈著、メタモル出版刊)。著者は阪神淡路大震災の激震地で被災し、心肺蘇生術で命を救い救われた母と娘。被災後、料理家として活躍しつつ、経験者ならではの視点から「防災とは何か」を発信し続けている

 被災時には、逃げまどう人で道路があふれることが予想される。「歩ける小さな子どもでも、手をひいて混雑の中を逃げることは難しい。離れてしまわないように、リードを準備しておきましょう」(坂本氏)。乳児と幼児がいるなら、乳児は前に抱っこ、幼児は背中におんぶして、2人とも身体にくくりつけて逃げる。人に押されて圧死するのを避けるため、可能ならば乳母車やゆりかご(コッド)などで子どもの身を守って逃げる。抱いて逃げたとしても、避難した先では段ボール箱でもよいので子どもの体を守るスペースを確保したい。

 だが非常時には、不可抗力で子供と離れ離れになってしまうこともありうる。そんな場合に備え、子供の身に着けるものには必ず、親元に戻れる情報(名前、住所、電話番号)を付けておくこと。名前を書く場所がない場合は、別の布に書いて縫い付けてでも連絡先を明記することが重要だ。

(文/桑原恵美子)

日経トレンディネット 2017年3月10日付の記事を転載]