トラブルに気付かないほど冷静

 訓練ではまず、滑走して離陸する寸前に片方のエンジンが故障するという状況がパイロットに与えられた。こうなると飛行機のバランスが崩れてしまって大変危険な状態になる。そこでまず足元のラダーペダルなどを操作して飛行機をまっすぐ飛ぶ状態にし、安全な高度まで機体を運ぶ。そして自動操縦を利用してトラブル解決に当たる。管制塔には緊急事態を宣言して、空港に戻る準備も行う。

 こうして書き出すと大変な状況なのだが、機長も副操縦士もスムーズに機体をまっすぐに整えるし、管制への連絡も淡々としているし……後ろから見ているだけでは、トラブルが起きたと気付かないほど冷静だった。

 その次に与えられた状況は、濃霧による視界不良。その状態でオートパイロットによる進入からの手動着陸を行うというものだった。フライトシミュレーターの窓から見える景色が切り替わると、かなり濃い霧で、ほとんど何も見えない。これは「分かりやすいトラブルだ」と思って見学していたが、視界が全くないような状態でもパイロットは冷静に飛行しつつ、着陸の準備を行い、チェックリストを使って最終確認し、管制から着陸許可をもらう。「お、滑走路が見えた」と思ったら、もう着陸していた。

 「こんな濃霧でも下りられるのか」と感心していたが、取材に立ち会ってくれたJALのパイロットによると「現在は、下りられない天候はないと言っていいほどになっている」という。さすがに滑走路が滑りやすくなる雪などの条件では厳しいが、見学させてもらったような視界不良はほぼ問題ない。自動操縦システムなどの飛行機の技術や、空港から着陸する飛行機を滑走路まで誘導する「ILS」(計器着陸装置)と呼ばれる装置などが進歩したことが大きいのだという。それにしても実に冷静に淡々とスムーズに対処していて、当たり前かもしれないが、あわてるような様子は全くみられなかったのが印象的だった。

気象条件がよい状態では、羽田の滑走路がこれぐらいはっきりと見える
気象条件がよい状態では、羽田の滑走路がこれぐらいはっきりと見える
しかし濃霧だと何も見えない。グレー一色だ
しかし濃霧だと何も見えない。グレー一色だ
うっすらと滑走路が見えたと思ったら、すでに着陸寸前。後ろで見ているだけの筆者はぶつかりそうに思えて、シミュレーターとはいえ身体が固くなってしまった
うっすらと滑走路が見えたと思ったら、すでに着陸寸前。後ろで見ているだけの筆者はぶつかりそうに思えて、シミュレーターとはいえ身体が固くなってしまった
そんな筆者をよそに、機長と副操縦士は全くあわてることなくすんなりと着陸した。こうした訓練を積み重ねているわけだ
そんな筆者をよそに、機長と副操縦士は全くあわてることなくすんなりと着陸した。こうした訓練を積み重ねているわけだ

機長と副操縦士は食事の内容も別?

 最後に、訓練前後に聞いた話を少し。飛行中は、機長と副操縦士のうち1名が操縦できない状態になっても、残りの1名が安全に操縦、着陸できるように手順が決められていて、そのための訓練も行っている。また、同時に体調を崩さないために食事の内容を別々にするといったリスク回避まで行っているそうだ。また、服用できる薬なども国の機関で細かく決められている。

 副操縦士になるには、航空会社が決めた訓練プログラムを26~30カ月かけて修了する。そこから勤務しながら訓練を受け、機長になるまでは、さらに7年から10年ぐらいはかかるという。機長は飛行中の責任を負う法的義務があり、重大な責任を背負っている分、なるまでの道は長く険しいのだ。機長や副操縦士になった後も、定期的に国や航空会社が設けている技能試験や身体検査を受けて、資格を更新する。万一、認められなかったときは、資格を更新できるまで、地上業務に回るそうだ。

 ちなみに、航空機に関する調査やチェックなどを行う国土交通省にも、パイロットのライセンスを持った元機長の職員がいる。空の安全をチェックする側にも、それだけの知識や経験が必要とされるわけだ。

 さて、ここまでは機体整備とパイロットの訓練を見てきた。次回はいよいよ管制塔の内部に迫りたいと思う。

(文/湯浅英夫=IT・家電ジャーナリスト)

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