「South by Southwest(SXSW)」は、毎年3月中旬に米国・テキサス州オースティンで開催される、音楽と映画、最新技術の複合イベント。展示会をはじめセミナー、ライブ、上映会、コンテストなど数千もの催しが行われ、80カ国以上から8万人以上もの来場者を集める。今回はそのなかでも、世界の最新技術とベンチャー企業が集まる「インタラクティブ」部門を取材。世界に打って出る日本企業の動きと、驚くようなアイデアを提示する海外の注目ベンチャーの動きを、現地からリポートする。

SXSWメイン会場の「Future of Food」ゾーン
SXSWメイン会場の「Future of Food」ゾーン
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 アプリに代わり、ハードウエアベンチャーの存在感が高まっているSXSW。各社がブースを連ねるトレードショーの中でも際立って熱気があるのが、「Future of Food(フューチャー・オブ・フード)」ゾーンだ。食にまつわるハードウエアベンチャーが集まるゾーンで、日本では考えられない驚きの新製品が所狭しと並ぶ。

 共通する特徴は、「既存の調理家電をスマート化する」というよりも、各社とも全く新しい製品ジャンルを生み出そうとしている点だ。食品ならではの、賞味期限や流通にまつわる課題の解決も狙うなど、実は深く考えられた製品が多いことにも驚かされる。米国のベンチャーが仕掛ける驚きの「食イノベーション」の一端を紹介する。

「プリント食品」の市場が生まれる!

 会場内でも黒山の人だかりとなっているのが、テキサス州ヒューストンのベンチャー企業、BeeHex(ビーヘックス)が出展した、食品の3Dプリンターだ。

BeeHexの3D食品プリンター試作機
BeeHexの3D食品プリンター試作機
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 同社はプロトタイプの製品を使い、ピザを“印刷”するデモを実施。生地(主に小麦粉)とトマトソース、チーズはすべて粉末のものを使い、水で溶かしてから本体上部の原料タンクに注入する。プリントを開始すると、原料がチューブを通じて高圧でプリントヘッドに送り出され、生地から順に積層印刷されていく。ビーヘックスはプリントヘッドからの液ダレを防ぐ技術で特許を出願している。

基本構造は通常の3Dプリンターとほぼ同じ。圧力機構やチューブ、プリントヘッドの作りが異なる
基本構造は通常の3Dプリンターとほぼ同じ。圧力機構やチューブ、プリントヘッドの作りが異なる
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小さなピザなら6分強で印刷できる。このあとオーブンで焼けば出来上がり
小さなピザなら6分強で印刷できる。このあとオーブンで焼けば出来上がり
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 ピザの場合は小麦粉、トマトソース、チーズが主原料となるが、材料やプリントするデータを変えれば、パスタやカップケーキ、チョコレートなど多様な食品が印刷できるという。

BeeHex独自の市場見通し
BeeHex独自の市場見通し
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 ビーヘックスCEOのアンジャン・コントラクター氏は、10年後の未来について、世界の3Dプリンターの市場規模がおよそ100億ドル、ピザの市場規模がおよそ500億ドルと予測。そのうえで、「今は全く重なっていない2つの市場が、我々の技術によって重なる。全く新たな市場が生まれる」と語った。

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